ロシアの地で果たした4年前のリベンジ、吉田麻也の悔恨はようやく消え去った【西野ジャパン23戦士のストーリー#9】

2018年07月13日 西川結城

「あんな形で終わらせることは受け入れられない」ブラジル大会の屈辱が吉田を動かした

吉田はリーダーシップを発揮し、ベテランの意見に流されそうになる若手にも声を上げさせた。(C)Getty Images

 二度目のワールドカップは、"後悔しないこと"がテーマだった。前回のブラジル大会で味わった無力感は、「もう懲り懲り」とため息混じりに話す。
 
 この4年で、吉田は目に見える成長、進化を遂げた。2012-13シーズンから在籍するプレミアリーグのサウサンプトンでは、出場機会に恵まれない時期も経験したが、今では不動の地位を築き上げ、ゲームキャプテンを任されることもあるほどだ。
 
 原動力は、1勝もできずに散ったブラジル大会の悔恨だ。コロンビアとのグループリーグ最終戦。ゴールを求めて前がかりになったチームは、逆に最終ラインの裏を突かれて4失点。ハメスに吉田が翻弄されるシーンが、世界に配信された。
 
「本当に何でもできなかった。自分の力が足りなかった。いや、その力すら出させてもらえなかった。ワールドカップという貴重な舞台。もうあんな形で終わらせることは、日本代表としても受け入れられない」
 
 本大会まで、残り2か月の時点での監督交代劇。チーム作りのための時間は、実質1か月足らずだった。
 
「自分たちの考えを忌憚なく話してほしい」という西野新監督のアプローチを受けて、吉田は動く。ミーティングでは積極的に主張を述べ、さらに対戦国のスカウティングを進めるスタッフとも、頻繁に意見交換をした。
 
 若手に対しても当事者意識を植え付けさせる。どうしてもベテランの発言に流されがちになるところを、吉田がコントロールし、声を上げさせた。昌子、柴崎、大島、武藤……何かあると、決まって彼らは吉田を頼りにした。
 
 共闘あるのみ。日本が世界と伍して戦っていくためには、戦術的にも精神的にも、チームに関わるすべての人間が、一枚岩にならなければいけない。それが、吉田が前回大会から学んだ教訓だった。
 
「あの時は、選手間でいろんなサッカー観が出てきたのは良かったけど、結局それが最後までまとまらずに本番を迎えてしまった。日本が強豪国の個に勝るためには、ひとつの方向性をしっかり共有し、束になって戦わないと難しい。時には弱者の戦い方になるかもしれない。でもそれは、日本が勝者になるための近道でもある」
 
 ロシアの地に、4年前より見た目も中身も逞しくなった日本人CBがいた。初戦でコロンビアにリベンジを果たし、そして決勝トーナメント進出。もう、ブラジル大会の悔恨は消え去った。頼れるディフェンスリーダーは、ただ目の前の戦いに全身全霊を傾ける。
 
取材・文●西川結城(サッカーライター)
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