ドイツ移籍の猶本光がセレモニーで告白「もうやめてくれって思ったこともありましたが…」

2018年07月09日 馬見新拓郎

当時の想いを振り返るとともに「ブレずにプレーできたのは、応援してくれたからです」とファンに感謝

8日に退団セレモニーを行なった猶本。駆け付けたファンに向けて率直な想いと感謝を語った。写真:徳原隆元

 SCフライブルク(ドイツ)に移籍するMF猶本光が、8日のなでしこリーグカップ、日テレ・ベレーザ戦に出場し、6年半在籍した浦和レッズレディースでのラストマッチを終えた。
 
 すでに日テレがリーグカップ決勝進出を決め、浦和は敗退しているため、この日は消化試合だったが、浦和駒場スタジアムで猶本の最後の勇姿を見ようと、2,421人が集まった。結果は2-0で浦和が勝利。リーグ戦を含め、今季1敗しかしていなかった女王・日テレから、浦和が金星を挙げた。
 
 試合後の駒場は19時を過ぎて日も落ちていたが、客席を立つ人は非常に少ない。猶本の移籍セレモニー開始を待つ人だった。その多さは、彼女が浦和で最も愛された選手という証拠だろう。
 
「2012年U-20女子ワールドカップで私のことを知って、そこから応援していただいている方がいると思います。当時は実力もそんなにないのに取り上げられたりして、『もうやめてくれ』って思ったこともありましたが、ここまでブレずにプレーできたのは、皆さんが私のプレーを見に来て、応援してくれたからです」
 
 2012年、猶本は筑波大進学を機に関東に引っ越し、福岡J・アンクラスから浦和に移籍した。移籍1年目から試合出場を重ねたが、翌年は苦戦を強いられる。試合出場機会が減り、 U-19アジア女子選手権で猶本はU-19日本女子代表のキャプテンを務めたが、アジアで4位となりU-20女子ワールドカップ出場権を逃した。同時に浦和は下位に低迷する。
 
 しかし、その翌年は浦和の再建を託された吉田靖監督(当時)が、猶本を含む若手に自信をつけながらリーグ優勝。指揮官に「代えの利かない選手」、「チームの心臓」と評された猶本は、前を向いたら止められない、相手にとって脅威となるボランチに生まれ変わり、ベストイレブンにも選ばれた。
 
「U-20女子ワールドカップに出られなかった分、最後まで優勝の可能性を残したなでしこリーグを戦い続けられた。世界大会を逃した、その意味を見出せるように過ごしてきたつもりだし、世界大会に出られなかったことも意味があったのかなと考えてもいる」と話す猶本は、U-19アジア女子選手権で勝ち切れない試合の度に涙していた頃からすると、パフォーマンスもメンタル面もたくましくなった。
 
 しかし、猶本は近年、中心選手の自覚が芽生えたのか「チームのバランス」という言葉をよく使うようになった。確かにチームのバランスは非常に大切だ。現代のサッカーではボールがどの位置にあっても、遠くでは両チームの選手が1歩や半歩の単位でポジションを修正し、バランスを保とうとする。
 
 しかし筆者は、猶本の魅力はバランスを取ることではなく、攻撃の迫力にあるように思う。2014年に見せた彼女の凄まじい前への推進力、鋭い攻撃参加は、明らかに相手の大きな脅威となっていた。日本中にうまいボランチはたくさんいるが、相手の脅威になれるボランチはどれだけいるだろうか。澤穂希、宮間あや、阪口夢穂(日テレ)が評価される理由は、相手にとって脅威だからだ。
 
 猶本が「梢姉さん」と呼び、浦和で最も愛された選手のひとりであるFW安藤梢は、大学の後輩に期待を込めてエールを送る。
 
「光にとってはこれからが勝負。まずは向こう(ドイツ)のサッカーを知って、考え、アピールをして周りに信頼してもらいながら、一つひとつのプレーで120%を出してほしい。目に見える結果を出して、心身ともに強くなっていってほしい」
 
 120%の力でチームのバランスを取るのもいいが、120%の力でチームを勝たせる選手に変貌してほしいと思う。浦和や日本では愛されつつ、対戦相手には最も嫌われるような存在に。
 
取材・文●馬見新拓郎(フリーライター)
みんなにシェアする
Twitterで更新情報配信中

関連記事