「速くて巧いだけじゃない」怪童エムバペの“本当の凄み”とは?

2018年07月01日 白鳥大知(ワールドサッカーダイジェスト)

スピードやテクニックよりもむしろ…。

アルゼンチン戦で3ゴールに絡んだエムバペ。(C)Getty Images

【ロシアW杯・ラウンド・オブ16】フランス 4-3 アルゼンチン/6月30日/カザン
 
 文字通り衝撃的なパフォーマンスだった。フランス勝利の立役者となったキリアン・エムバペである。
 
 テレビで観るのと生で観るのとでは、だいぶ印象が変わるプレーヤーがいる。エムバペもそのひとりだった。6月26日のデンマーク戦は78分からの途中出場でボールタッチも少なく、「やっぱり雰囲気ある。かなり速い、足下からボールが離れない」という程度の感想だった。
 
 しかし、アルゼンチン戦のパフォーマンスを見て、プレースタイルそのものから持っていた印象が大きく覆った。
 
 17-18シーズンのパリSGではあの人類最速男ウサイン・ボルトに並ぶトップスピード44.70kmも記録したという爆発的なスピード、その最高速度中でもブレないテクニックなどは、もちろん大きな武器のひとつだ。中盤から約60メートルを独走して3人を置き去りにし、最後はマルコス・ロホも振り切ってPKを奪ったプレーは11分のプレーはまさに圧巻。64分の混戦の中での左足でのゴール、その4分後のスルーパスに抜け出しての右足フィニッシュも素晴らしかった。いずれもスピード、アジリティー、テクニックが実に見事に融合していた。
 
 しかし、この19歳の怪童の持ち味はそれだけではない。味方と敵の位置をしっかり視野に入れるポジショニング、自ら仕掛ける時とパスを出す時を的確に見極める判断力、パスとオフ・ザ・ボールの動きのいずれにおけるタイミングの感覚など、いわゆる戦術的インテリジェンスに非常に優れているのだ。
 
 オフ・ザ・ボールでのボールの引き出し方、状況に応じた方向転換、逆サイドにボールがある時やディフェンス時で前に残っている時の動きなど、テレビ画面にはなかなか捉えられないプレーを目の当たりにして、フランスの背番号10に完成度の高さに釘付けになった。スピードやテクニックよりもむしろ、個人的にはそっちに驚かされた。
 
 普通これだけフィジカルやテクニックに恵まれていると、とくに若い頃はそれに依存したり溺れたりし、パスやオフ・ザ・ボールの動き、ポジショニングの感覚などが疎かになりがちだが、エムバペは19歳にしてまったくそんなことがないどころか、むしろ持ち味のひとつにしているのだから末恐ろしい。
 
 そもそも遠からず世界の頂を極めても不思議はない素材と言われていたが、リオネル・メッシとクリスチアーノ・ロナウドが早くも散っただけに、エムバペは今大会中にその後継者として一気に世界的スーパースターの地位を確立するかもしれない。
 
取材・文:白鳥大知(ワールドサッカーダイジェスト編集部)
 
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