【W杯 伝説への挑戦】ネイマールが真のクラッキになるための準備は整った

2014年06月23日 大野美夏

ネイマールに楽しんでプレーさせること。

ネイマールをサポートし、輝かせようという意識をチームは共有しているようだ。 (C) Getty Images

 ワールドカップ出場という夢をついに叶えたネイマール。クロアチアとの開幕戦では2ゴールを決めてチームを勝利に導いた。左足で狙い澄ました29分は、貴重な同点弾だった。PKを蹴り込んだ71分は、勝ち越しゴールだ。

 窮地を救う、まさにエースとしての働きだった。緊迫した雰囲気のなか、開始11分にマルセロのオウンゴールでクロアチアに先制を許したセレソンは、浮き足立った。そんなチームを緊張から解き放ち、自信を取り戻させたのが、ネイマールの2ゴールだったのだ。すべての責任とプレッシャーを受け止めながら、決定的な仕事をやってのける。まさにエースとしての活躍だった。
 
「このゴールができたのはチームのおかげ。ブラジルには良い選手が揃っている。このチームに勝つのは難しいよ」
 
 そう語ったネイマールの笑顔は、確信に満ちていた。
 
 順風満帆のスタートから一転、続くメキシコ戦は試練の場となった。立ちはだかったのは、敵の守護神ギジェルモ・オチョアだ。再三に渡る好セーブでネイマールを、セレソンを否定しつづけた。
 
 最後までオチョアの牙城を攻略できず、メキシコ戦はスコアレスドローに終わった。ネイマールがゴールを決めないとチームは勝てない。2試合を終えて、そんなジンクスが出来上がりつつあるのは気になるところだ。
 
 絶対的なエースの存在は、ある意味ではチームにとって諸刃の剣だ。その圧倒的な個性に、多くを依存することになるからだ。ネイマールさえ止めればブラジルは恐れるに足りない。メキシコ戦はそんな印象を与えただろう。
 
 ネイマールには覚悟がある。すべての責任を引き受け、チームを勝利に導く活躍を続ける、そんなセレソンの10番としての覚悟がだ。ただ、エースがエースとして輝くためには、チームメイトの助けはやはり必要だ。
 
 セレソンの選手たちも、それは分かっている。
「ネイ(ネイマールの愛称)は23人のひとりだ。彼だけですべてを背負うわけじゃない」
 ダビド・ルイスがそう言えば、バルサでも同僚のダニエウ・アウベスは、
「ネイマールはブラジルにとって唯一無二の存在。ネイマールを最高の形で生かさないといけない」
 と語る。そして、チアゴ・シウバ、フレッジ、ジュリオ・セーザル、D・ルイスの4人のリーダーは口を揃える。ネイマールを最高の形で生かすそれは、「ネイマールに楽しんでプレーさせることだ」と。
 
 グループリーグ突破が懸かるカメルーン戦。チームがネイマールのためにプレーする準備はできている。ネイマールを真のクラッキ(名手)にするための準備が――。
 
文:大野美夏
 
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 ネイマール、リオネル・メッシ、クリスチアーノ・ロナウド――。自他ともに認めるブラジル・ワールドカップの主役候補の3人だ。彼らが挑むのは、ただし今大会の主役の座という限定的な栄誉ではないだろう。
 
 いずれもサッカー史に名を刻みうる特別な才能であり、ブラジルのネイマールはペレ、アルゼンチンのメッシはマラドーナ、ポルトガルのC・ロナウドはエウゼビオという、それぞれの国のレジェンドを超えうるカリスマだ。
 
 ブラジルの地で、いわば伝説に挑む3人の天才。その闘いに密着してお届けしよう。
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