【W杯キープレーヤー解体新書】アンドレア・ピルロ|世界最高レベルのレジスタ

2014年06月20日 ロベルト・ロッシ

大会後の代表引退を表明。その妙技を存分に堪能したい。

35歳になったいまなお、ピルロは絶対な司令塔としてアッズーリに君臨する。 (C) Getty Images

 35歳を迎えた現在もなお、イタリア、そして世界でも最高レベルのレジスタ(司令塔)。プランデッリ監督が極めてポゼッション志向の強いチーム作りを進めたのも、この男の存在があったから。いまのアッズーリはいわば、ピルロを中心に構築されたチームであり、間違いなく絶対不可欠だ。
 
 中盤の底で最終ラインからボールを引き出し、そこから周囲のMF陣とパスを交換し、攻撃の方向性とリズムを司る文字通りの司令塔は、高いテクニックと傑出した戦術眼を備え、左右両足から繰り出されるパスは正確かつ的確。中盤のポゼッションを通じて何度もボールに触れるなかで、常に最善のプレーを選択して局面を前に進め、敵最終ラインを崩すきっかけとなる決定的なパスを前線に送り込む。
 
 FWの足下につけるクサビの縦パス、タイミングのいいサイドチェンジ、針の穴を通すスルーパス、そして裏に抜け出す味方にタイミングを合わせて自陣から敵最終ラインの頭越しにピンポイントで送り込む30-40メートルの「タッチダウンパス」と、そのレパートリーは実に幅広い。年齢とともに磨きが掛かったフットボールインテリジェンスも特筆ものだ。
 
 ただ、全盛期と比べるとアジリティーや反応性はやや衰えている。それでも自陣の深いゾーンで敵に囲まれれば、それをいなしてリスクを冒してでもパスを狙う傾向は相変わらず。そこでプレッシャーを受けて不用意にボールを失うシーンが時折見受けられる点が、小さいながらも不安要素ではある。
 
 その持ち味を発揮するには、ピルロと"対話"できるテクニックを備えた選手を近くに置くのが不可欠。プランデッリ監督がデ・ロッシ、マルキージオ、T・モッタなどテクニカルなMFで中盤を固めているのはまさにそれゆえだ。
 
 もし、ピルロを欠けば、志向スタイルも多少なりとも見直さざるをえない。3MFの中央に同じレジスタながらより守備的で、かつビルドアップにおいては縦への意識が強いデ・ロッシを置いた場合は、ポゼッション志向をやや弱めてよりダイレクトにゴールを目指す、トランジション志向に傾斜を強めたスタイルにシフトするはずだ。
 
 すでに大会後の代表引退を宣言しており、アッズーリの攻撃を操るピルロを見られるのはこれがラストチャンス。希代のレジスタのゲームメークを、存分に堪能したい。
 
分析:ロベルト・ロッシ
構成:片野道郎
 
※『ワールドサッカーダイジェスト 出場32か国戦術&キープレーヤー完全ガイド』p49より抜粋。
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