【蹴球日本を考える】J1王者に互角の勝負! 戻ってきた湘南に見えた“新たな引き出し”

2018年03月03日 熊崎敬

狭い局面でのパスワークに進歩の跡が…。

昇格組の湘南が昨季王者を相手に互角の勝負を演じ、ドローに持ち込んだ。写真:山崎賢人(サッカーダイジェスト写真部)

 まだまだ肌寒い季節だが、金曜日の夜のサッカーも悪くない。そう思わせてくれる好ゲームだった。
 
 見応えのあるゲームになったのは、昇格組の湘南が川崎と互角に近い勝負を演じたからだ。
 
 アンドレ・バイアを中央に据えた5バックは、ラインをコンパクトに保ち、オフサイドトラップを駆使しながら川崎の攻撃に対応。また鋭い出足によって球際の戦いの多くを制し、敵陣に攻め込む。
 
 これだけなら、今までの湘南とさほど変わらない。目を惹いたのは、狭い局面でのパスワークだ。
 
 押し込まれた時間帯でも、湘南が苦しまぎれのロングキックに逃げる場面は少なかった。川崎に前からプレッシャーをかけられても、GK秋元からCB山根、もしくは大野とつなぎ、中盤から前線へとよどみなく展開。特に左サイドでは中盤の密集戦を制し、杉岡が幾度となくタッチライン際を駆け上がった。
 
 自陣でのパス回しは、やりすぎると墓穴を掘ることにもなりかねず、序盤は「いつかやらかすのではないか」という気もした。
 だが、杞憂だった。それはふたつの理由がある。ひとつは周りの選手が勤勉に走って複数のパスコースを用意したこと。もうひとつは、パスの受け手がしっかりと身体の向きを作ることで、ボールを確実に懐に収めていたからだ。
 
 こうしたプレーは一朝一夕にできるものではない。このシーズン、この試合に備えて、繰り返しトレーニングを積んできた成果だろう。しっかりとパスコースを用意し、身体の向きを作ってボールを収めれば、多少のプレッシャーをかけられても奪われることはない。
 
 走力で敵を圧倒してきた湘南が、膠着した局面でも落ち着いてゲームを組み立てる新たな引き出しを持とうとしている。
 シーズンはまだ始まったばかりだが、昨季のJ2チャンピオンが旋風を巻き起こす可能性は決して小さくないと思う。
 
取材・文●熊崎 敬(スポーツライター)
 

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