15年ぶりのJ2に挑む新潟、鈴木政一新監督の思惑は?

2018年01月11日 大中祐二

「私自身がぶれないこと。信念を持ってやり続けなきゃいけない」

鈴木監督はまず、守備の改善を考えているという。写真:大中祐二

 その語り口調。声のトーン。
 
 鈴木政一新監督の就任会見中に思い出したのが、年末、NHKの『あさイチ』で、三谷幸喜が自作の脚本を朗読する有働由美子アナウンサーを演出した際に話した"極意"だった。曰く、声による演技は、声の高低、強弱、テンポが遅いか早いかに集約される――。
 
 J2に降格した新潟を今シーズン率いる鈴木監督は、まさしくこの6つ要素の間を、めまぐるしく行き来しながら話す。"芝居がかった話し方をする"などと言いたいわけではない。素晴らしいほどに生き生きと、聞き手であるこちらに話しが伝わってくるのである。
 
 会見で右手に握ったマイクを通して聞こえてくるだみ声は、ピッチの上で腹の底から発せられたとき、ずっと遠くまで響くだろう。メディアからの質問に一つひとつ、丁寧に答えながら、話していて熱がこもってくると身振り手振りが加わるものだからマイクが口元を外れ、そのたびにスピーカーから声が聞こえなくなる。
 
 温かみと熱とを感じさせる会見は、およそ1時間にも及んだ。会見場の窓から見えるビッグスワンのピッチには、いつの間にか降りだした雪が、薄く積もり始めていた。
 
 鈴木監督が目指すサッカー、方向性は、挨拶の冒頭で語られたことに尽きる。
 
「当然、J1復帰、早期の復帰を目指します。それを実現させるのが、攻撃も守備もクリエイティブでアグレッシブなサッカー。状況に応じて、攻撃では個人で打開するのか、グループで打開するのか、チームで打開するのか。守備では個人でボールを奪う、個人で奪えなければグルーブで奪う、グループで奪えなければチームで奪う。そういうサッカーができたらいいな、と。
 
 そのために、選手にも(高い)ハードルを持ってもらいます。オールマイティ・プラス・スペシャリティを持った選手になってほしい。攻撃も守備も、オン(ザ・ボール)とオフ(ザ・ボール)しかございません。判断あるのみ。オンで何をしなきゃいけないか。オフで何を見て、どう判断して、考えてプレーしなきゃいけないか。それが連続することによって、みなさんがご存知の"連動"という言葉に初めて変わってくるわけです」
 
 描かれるのは、究極の理想ともいえる姿である。1年でのJ1復帰どころか、J1制覇を目指すチームにも課されるべき、サッカーの本質への探究心を、鈴木監督は新潟の選手たちに求めている。
 
 だが、理想が高ければ高いほど、その浸透には時間が掛かるはずだ。1か月半後には新シーズンは開幕する。チームの成長のスピードに関係なく、どんどん試合はやってくるし、そのなかで勝ち点を積み上げていかなければならない。理想の追求と、実利と。両立は可能なのだろうか。
 
 問いに対して、鈴木監督のスタンスは明快だ。
 
「ひとつは、私自身がぶれないことです。結果が出ないから、違うことを考える。そうではなくて、やっぱり信念を持ってやり続けなきゃいけない。監督だから、当然、チームを勝たせなきゃいけない。そのためには、組み合わせなんです。チームを分析し、グループを分析し、個を分析する。的確に分析できなければ、良いチーム作りはできません。チームとしての分析をベースに、(試合では)相手もあるなかで、誰を先発させ、交代させるのか。何がベストなのか。それを考えるのが、監督の責任だと思います」
 
 鈴木監督は、手始めに守備の改善を考えている。来週17日から始まるキャンプは、相当ハードになるとも予告する。高知、御前崎と、これから1か月半のキャンプで、「できれば9割と言いたいところだが、チームの8割は作りたい」という言葉からも、タフで過酷なトレーニングが選手たちを待ち受けていることが容易に想像される。
 
 ぶれることなく、かつ硬直することなく。試合に向けた分析と準備が行なわれ、試合が一つ終われば再分析と修正、新たな準備というサイクルが始まる。試合の一つひとつが、2018年の新潟を蒸留し、熟成させていくだろう。
 
取材・文●大中祐二(フリーライター)
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