【選手権】固い試合で際立った神村学園・原田啓史の「普通」のパフォーマンス

2017年12月31日 川端暁彦

飄々と相手をいなしながら、相手の急所へとパスを送り込み続けた。

原田の余裕があるプレーは目を引いた。写真:山崎賢人(サッカーダイジェスト写真部)

[高校サッカー選手権・1回戦]秋田商0-1神村学園/12月31日/NACK5スタジアム大宮
 
 試合後、神村学園の有村圭一郎監督が浮かべた微苦笑混じりの表情が、ゲーム内容を色濃く物語っていた。
 
「ドリブルスタートになってしまうことが多くて、パスでもっと幅を取っていけたと思うんですが……。すぐにドリブルに入って単調になってしまった」(有村監督)
 
 高校サッカー選手権の初戦で"ありがち"なプレーぶりではあった。緊張から視野が狭くなり、普段何事もなくできているようなプレー選択ができなくなる。「みんな周りが見えなくなっていてドリブルが多くなったし、判断が遅くなっていた」とMF原田啓史が振り返ったように、無闇に無謀なドリブルや、明らかに相手が見えてない自陣でのパスがミスになるなど、「"らしさ"がなかなか出せない」(有村監督)試合となってしまった。
 
 平常心ならば考えられないようなミスが相次いだ神村学園だが、その中でもちょっと違う毛色のプレーを見せていた選手がいる。10番を背負う原田だ。中盤インサイドでコンビを組む清水エスパルス内定のMF高橋大悟がマンツーマンマークに付かれる状況だったが、「高橋だけじゃないところを見せたい」と的確にボールを引き出して、落ち着いたパスさばきを披露。歯車が噛み合ってない中でもキッチリと仕事をこなした。
 
「高橋に(マンツーマンで)付かれているので、いろいろ空いてきていたので」(原田)と、あこがれのイニエスタのように飄々と相手をいなしながら、相手の急所へとパスを送り込み続けた。有村監督が「初戦なので仕方ない」と振り返ったとおり、初めて臨む選手権で「普通」が出せる選手は少ないもので、だからこそ原田の「普通」のパフォーマンスはちょっと際立つこととなった。
 
「今日、原田は良かったですね」とした有村監督だが、実は大会前にこの10番に少し刺激を与えていたのだと言う。
 
「ずっと試合に出ていて疲れていたからだと分かっていたんですが、少し調子を落としていた。だからあえて先発から外す可能性を見せたんです。(原田が)1年生にポジションを奪われるかもしれないという状況を作った」(有村監督)
 
 初めて臨む夢舞台を前にして先発落ちなど厳に避けたいもの。原田は「最後の大会なので、絶対に出たかった」と再び奮起。指揮官からハートに火を入れられた状態でこの大会に臨んでいたことを明かしてくれた。
 
 有村監督にとって、この大会は「(鹿児島実の監督だった)松澤隆司先生の亡くなった年にある選手権。先生が作った鹿児島の高校サッカーの力を見せないといけなかった」という場所でもあった。かつて"鹿実"で薫陶を受けた恩師について有村監督は「本当に一人ひとりをよく観ている方で、心の部分を鍛えてもらった」と振り返る。「すごく怖いけれど、でも暖かかった。自分も生徒たちにとってそういう存在でありたい」と願う有村監督が、大会を前にした原田の様子を観察し、あえて心に働きかけていたわけだ。
 
 今大会に臨むにあたって有村監督が掲げたのは"らしく戦う"こと。その意味で言えば、初戦の出来は物足りないものだったのだが、初戦という点も加味して考えておく必要があるだろう。中1日の練習は軽めで切り上げて、ミーティングをしっかりやる予定だという。そこで「心」に働きかけて臨む2回戦。熱く鋭くボールを動かし、観ている人を楽しませるように"らしく"戦う神村学園が観られることを期待しておきたい。

取材・文●川端暁彦(フリーライター)
 
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