【連載】蹴球百景 vol.32「毀誉褒貶オブ・ジ・イヤーはハリルホジッチ監督?」

2017年12月28日 宇都宮徹壱

評価に乱高下があったのは……。

ファンの間で評価が定まらなかったハリルホジッチ監督。欧州遠征やE-1選手権では苦戦を強いられた。写真:宇都宮徹壱(Tokyo. 2017)

 もしも「毀誉褒貶オブ・ジ・イヤー」なんてものがあったなら、日本代表のヴァイッド・ハリルホジッチ監督は「2017年の日本サッカー界で最も毀誉褒貶が激しかった人物」として、2位のミハイロ・ペトロヴィッチ前浦和監督を大きく引き離して優勝することだろう。それくらい今年は、この人の評価は乱高下を繰り返していた。もちろん本人とて、必要以上に持ち上げられたり貶められたりするのは不本意ではないだろう。が、今年はハリルホジッチ監督の評価が、ファンの間でなかなか定まらなかったのも事実である。
 
 ワールドカップ・アジア最終予選が再開した3月24日、日本は初戦で敗れているUAEに対してアウェーで見事なリベンジを果たす。2-0というスコアもさることながら、ベテラン今野泰幸を復帰させてインサイドハーフで起用する采配は見事だった。しかし6月13日、イランで行なわれたイラク戦では、終了間際で1-1のドローとなり、再び逆風が吹き始める。この時点でも、日本は依然としてグループ首位。次のホームでのオーストラリア戦に勝利すれば、本大会出場が決まるというのに、その後も解任論は根強く残り続けた。
 
 そして運命の8月31日、埼玉スタジアムでのオーストラリア戦。この試合も2-0で快勝し、ワールドカップ予選で初めて宿敵に勝利したことで、ハリルホジッチ監督の評価は一気に急上昇した。また、それまで不可欠な主力として遇されてきた本田圭佑と香川真司が、ずっとベンチに置かれたまま予選突破を決めたことも、指揮官が進めてきた世代交代を象徴するシーンとしてクローズアップされた。このオーストラリア戦こそ、今年のハリルホジッチ監督の絶頂期であったと言ってよいだろう。
 
 しかしその後、消化試合となったサウジアラビアとのアウェー戦を落とし、本田と香川と岡崎慎司を外して挑んだ欧州遠征も、力の差を見せつけられてブラジルとベルギーに連敗。そして年内最後のゲームとなったE-1選手権の韓国戦では、(国内組オンリーで怪我人も続出したというエクスキューズはあったが)1-4という歴史的な敗戦を喫した。結局のところ2017年の代表で、十分に納得できる勝利はUAE戦とオーストラリア戦の2試合のみ。戦術的なオプションは多少の上積みはできたが、チームづくりや采配に硬直的な面が見られるようになり、それが結果以上に解任論の論拠となっているように感じられる。
 
 大敗のダメージを引きずったままの越年は、当人が考えていた以上にネガティブな影響を及ぼすことが予想される。来年の3月まで代表戦はないし、正月にはワールドカップイヤーを見込んだ特番も組まれる。代表監督としては非常にバツが悪い。私自身は「この試練は6月のカタルシスへの序曲に違いない」と受け止めているのだが、もしかしたら少数派なのかもしれない。状況としては2010年の南アフリカ大会直前を想起させるが、今回はあの時以上にファンは忍耐を求められることになりそうだ。
 
宇都宮徹壱/うつのみや・てついち 1966年、東京都生まれ。97年より国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。近著に『フットボール百景』(東邦出版)。自称、マスコット評論家。公式ウェブマガジン『宇都宮徹壱ウェブマガジン』。http://www.targma.jp/tetsumaga/
 
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