【番記者通信】金満のレッテルはがすFFP対策は、先見の明の「タレントバンキング」|チェルシー

2014年05月09日 ダン・レビーン

レンタルに出して磨きをかけ、高値で売却する。

700万ポンドで獲得したデ・ブルイネを、今年1月、ヴォルフスブルクに1800万ポンドで売却。タレントバンキングの典型的な成功例だ。 (C) Getty Images

 エミレーツではシャンパンのコルクがポンポンと抜かれ、エティハドではどのように逃げ道を見つけ出そうか、頭を抱えているに違いない。一方、スタンドフォード・ブリッジでは――、通常どおり営業中だ。
 
 ファイナンシャル・フェアプレー(FFP)をめぐる悲喜こもごもだ。FFPとは、クラブ経営の健全化を目的にUEFAが導入した制度で、大幅な財政赤字やオーナーなどの個人資産による負債の補填を禁じる財務基準である。基準をクリアできなかったクラブは、UEFA主催のコンペティション(主にチャンピオンズ・リーグとヨーロッパリーグ)から締め出され、罰金などのペナルティーを受ける。
 
 FFPの適用が本格的にスタートし、審査結果が発表された。基準を満たせなかったのがマンチェスター・シティで、UEFAから4900万ユーロ(約69億円)の罰金を言い渡され、さらにCL登録枠の削除(通常の25人から21人へ)という処罰も受ける可能性がある。
 
 健全経営に徹して余裕でクリアしたのがアーセナルで、チェルシーも基準を満たした。シティのように高額投資を続けているイメージがあるが、FFP対策をしっかり講じてきたのだ。
 
 英国はいま、不動産ブームだ。中国人やロシア人がロンドンの不動産を買い漁り、地価や住宅価格の高騰を招いている。投資対象の、いわゆるランドバンキングだ。
 
 ランドバンキングならぬ「タレントバンキング」が、チェルシーが講じたその対策のひとつだ。10代の有望なタレントを青田買いし、レンタルに出して磨きをかけ、高値で売却する。毎年20人近くの若手が武者修行に出ていて、チェルシーでのプレー経験がないまま売られる選手も少なくない。
 
 土地売買と同じで、重要なのは先見の目だ。中国やロシアの富豪、事業家たちが西ロンドンの物件に目を付けたように、チェルシーはベルギーに目を付けた。
 
 ケビン・デ・ブルイネは、タレントバンキングの典型的な成功例だ。2012年1月にゲンクから獲得し、半年間はそのまま留め置いた後、翌13-14シーズンにドイツのブレーメンへレンタル。そこでブレイクすると、今シーズンは開幕から半年間だけ陣容に加え、今年1月にヴォルフスブルクへと売り渡した。売却額はおよそ1800万ポンド(約30億円)。獲得費用は700万ポンド(約12億円)だから、デ・ブルイネの売買で1100万(約18億7000万円)ほどの粗利を得ている。
 
 金満のレッテルは、名実ともにシティに譲り渡した。
 
【記者】
Dan LEVENE|Fulham Chronicle
ダン・レビーン/フルアム・クロニクル
チェルシーのお膝元、ロンドン・フルアム地区で編集・発行されている正真正銘の地元紙『フルアム・クロニクル』のチェルシー番。親子三代に渡る熱狂的なチェルシーファンという筋金入りで、厳しさのなかにも愛ある筆致が好評だ。
 
【翻訳】
松澤浩三
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