【連載】蹴球百景 vol.27「『いかにも全社らしい』風景」

2017年10月26日 宇都宮徹壱

ある種のフェスのような楽しみ方が。

全国社会人サッカー選手権大会が開催された福井県の観光資源といえば恐竜。地元クラブも“恐竜のように強くたくましく戦っていく集団”との願いを込められ「サウルコス福井」と名付けられている。写真:宇都宮徹壱(Fukui. 2017)

 全社(全国社会人サッカー選手権大会)の取材で福井県に行ってきた。全国の地域リーグ以下の32チームが集い、5日連続で行なわれる過酷なトーナメント大会。一方でこの大会は、普段Jリーグで行かないような土地に赴き、そこでの風物や名物に触れながら、さまざまな地域のサッカーを一度に楽しむ。もちろん、Jリーグほどレベルが高いわけではない。けれども「毎日がサッカー観戦三昧」という、ある種のフェスのような楽しみ方はJリーグにないものだ。今回は取材の中で見つけた「いかにも全社らしい」風景を点描する。
 
 まずはサポーター。今大会、サポーターの数が多く感じられたのはアルテリーヴォ和歌山とVONDS市原FC。また、いわきFCも県1部のチームとは思えないくらいの人数(20人くらい?)が遠く福井に駆けつけていた。1回戦と2回戦が行なわれるのは週末なので、スタンドもサポーターのコールやチャントでそれなりに賑わう。もっとも週が明ける3回戦以降は、当然ながらサポの姿はがくんと減り、横断幕は貼ってあるのにサポはいないというシュールな光景も目にすることがある。最近では地元の幼稚園児が動員され、「赤がんばれ~!」「青がんばれ~!」と応援するケースもある。
 
 懐かしい顔と出会えるのも、全社ならでは。テゲバジャーロ宮崎の指揮官は、山形や大分など7つのJクラブで指揮を執った石崎信弘監督で、チームには「デカモリシ」こと森島康仁がいる。一方、市原を率いるのは清水での天皇杯優勝経験があるゼムノビッチ・ズドラブコ監督で、こちらにはかつて川崎で活躍したレナチーニョがいる。G大阪のファンだったら、今大会で全社枠を獲得したFC TIAMO枚方に小川直毅がいることに感銘を覚えるかもしれない。元熊本の藏川洋平は、鈴鹿アンリミテッドFCの監督兼選手として、八面六臂の活躍を見せていた。
 
 全社の大会運営を支えているのは、地元のボランティアスタッフだ。この大会は、翌年に国体が行なわれる都道府県で開催され、いわば国体の予行演習という側面もある。大会初日はメディアの受付も融通が利かなかったり、会場のアナウンス(たいていは地元の高校生が担当する)もたどたどしかったり、取材する側としてはいささか不満を覚えることがしばしばだ。ところが日程が進むにつれて、ボランティアの動きも目に見えてスムーズになってくる。やがてお互いにも顔なじみとなり、取材最終日は心を込めたお礼を言うことができた。本番となる来年の国体でも頑張ってほしい。
 
 ところで福井県の観光資源といえば、なんと言っても「恐竜」。県立恐竜博物館は観光名所のひとつだし、JR福井駅では恐竜のリアルな模型を拝むことができる。地元のクラブはサウルコス福井だし、福井国体のマスコット『はぴりゅう』も恐竜がモチーフになっている。滞在期間中、残念ながら恐竜には出会えなかったが、温泉にゆっくり浸かったし、福井のB級グルメであるソースかつ丼や越前そばも楽しむことができた。冬の気候は厳しそうだが、それ以外は意外と過ごしやすいし食べ物も美味しい。福井での取材を終えた今、「早く全国に上がってこい、サウルコス!」と改めて思った次第だ。
 
宇都宮徹壱/うつのみや・てついち 1966年、東京都生まれ。97年より国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。近著に『フットボール百景』(東邦出版)。自称、マスコット評論家。公式ウェブマガジン『宇都宮徹壱ウェブマガジン』。http://www.targma.jp/tetsumaga/
 
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