【本田密着】「火星人」返上のカギは献身性にあり

2014年03月27日 神尾光臣

しっかりとカバーリングし、しっかりとボールをゴール前に運ぶ。

献身的なプレーで各メディアから高評価を受けた30節のフィオレンティーナ戦は、今後に向けて示唆に富む試合となった。 (C) Getty Images

 イタリアの水に慣れてきたか。フル出場で2-0の勝利に貢献した3月26日のフィオレンティーナ戦での本田圭佑を、以前「火星人」と揶揄した『ガゼッタ・デッロ・スポルト』は、
「チームメイトとコミュニケーションが取れないことからくる呪縛から、ようやく解放されたかのようだった」
 と、評価した。評点は「6.5」。主要メディアの全てで、採点は及第点を越えていた。

 なにが良いと見なされたのか。開始3分にカカの折り返しを空振りしたシュートミスにはじまり、絶好の位置からのFKを壁に思いきり当てるなど、アタッキングサードで決定的な仕事ができなかったという点では相変わらず。前半はミス自体も多く、10番らしい輝きを見せたと言えるのは、左サイドからのアデル・ターラブトのクロスにファーサイドで追いついて、ダイレクトで中央に折り返した38分のプレーくらいだろう。ただ、これまでと違って際立つ部分があった。献身性である。

 攻めた後にはしっかり戻り、右サイドのスペースを埋める。カットインを仕掛ける対面のファン・ギジェルモ・クアドラードに振り切られそうになるシーンが何度かあったものの、攻撃的な選手としては十分な貢献を見せた。中盤のルーズボールに対する反応もよく、後半はカウンターの起点になっていた。守備ではしっかりと走って対応し、攻撃では自らのテクニックをひけらかすのではなく、チームにとってベストな展開を作り出す。フィオレンティーナ戦でのプレーは、まさにイタリア人好みの“実直性”だったと言える。

 サッカー選手に最低限求めるクオリティーは? イタリア人に聞くと、たいていこんな答が返ってくる。

「走ったかどうか」

 苦闘のなかでもしっかりとカバーリングし、またボールを相手ゴール前にしっかりと運ぶ。プロビンチャ(中小クラブ)的な守備重視、あるいはハイプレスを基本とするサッカーはもとより、ジョゼップ・グアルディオラ時代のバルセロナに代表されるようなポゼッションサッカーでも、走ることはこのスポーツの基本といってもいい。これまでチームとは関係のないようなリズムで動き、その様子を指して「火星人」と言われた本田は、チームのベクトルに沿って献身的に動いていた。ここに大きな意味がある。

 試合後、本田はカカやマリオ・バロテッリらとともにアウェー側のミランサポーターのところへ行き、応援を感謝した。そしてユニホームを脱ぎ、スタンドへ投げ入れるファンサービスをした。バロテッリは地元テレビ局のインタビューで、「俺は流れの中から決めたかったんだ。ただ(パスを)ちゃんと通してくれないんで、本田には怒った」と語っていたが、本田とは試合後に抱擁して健闘を称え合うなど、2人はプロとして良い関係を築きつつあることも垣間見えた。

 このフィオレンティーナ戦が、本田がチームの一員として認められるターニングポイントとなるか。次節キエーボ戦以降も、献身的なプレーの継続を期待したい。

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 2014年1月、本田圭佑が新たなチャレンジを開始した。CSKAモスクワから、世界屈指の
超名門クラブ、ACミランへ――。

「心の中の『リトル本田』に聞いた」との名言とともに、名門クラブの背番号10番を背負った本田。そのロッソネーロ(ミランの愛称で赤と黒の意)の日々を、現地在住のライター、神尾光臣氏が追う。
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