【連載】蹴球百景 vol.20「来年のワールドカップは期待していい!?」

2017年07月03日 宇都宮徹壱

ロシアを初めて訪れた2000年と比べ…。

来年のワールドカップのプレ大会としてコンフェデレーションズカップを開催したロシア。ここ15年ほどで大きな変化を遂げていた。写真:宇都宮徹壱(Moskva, Russia. 2017)

 6月19日からスタートしたコンフェデレーションズカップは、ドイツの優勝で幕を閉じた。現地での取材は当初「ロシアでの2週間は、ちょっと長いかな」と思っていたのだが、もともと東欧の空気が性に合うことに加え、ロシアでの生活は意外とストレスが少ないことにはたと気が付いた。私が初めてロシアを訪れた2000年は、外国人というだけで警察官に呼び止められては何度も誰何(すいか)されたものだ。また店に入っても店員は無愛想で、サービスという概念がまったくなっていなかったように思う。
 
 ところがこの15年ほどで、ロシアという国は急速に「西欧化」することとなる。その大きな要因となったのが、2000年代の世界的な原油価格の高騰。この天恵により、ソ連崩壊以降は悪化の一途を辿っていた経済が息を吹き返し、やがてロシアは世界的にも豊かな国の仲間入りを果たすこととなる。変化はまず、モスクワの街の風景に現われた。高級車とオシャレな店が増え、人々の身なりや表情にも余裕が感じられるようになる。やがて外国からのビジネスマンや観光客が増えると、警官から呼び止められることもなくなった。
 
 今回のコンフェデでは、モスクワ、カザン、ソチ、そしてサンクトペテルブルクの4都市を回った。それらの都市での取材を通して確信したのは、来年のワールドカップはきっと素晴らしい大会になるだろう、ということだ。換言するなら、われわれ取材者や観戦者にとってロシアでのワールドカップは、思いのほか快適なものになりそうだ。成田からモスクワまでは飛行機で10時間半。現地の物価もEU諸国に比べればリーズナブルだし、公共交通機関も整備されているし、治安も悪くない。ブラジルや南アフリカに比べれば、はるかにハードルが低く感じられる。
 
 何より今回驚かされたのが、スタジアムの変化だ。ロシアをはじめとする旧共産圏のスタジアムといえば、トラック付きの屋根なしが当たり前で、椅子は壊れているし、トイレは絶望的に汚いというのが一般的であった。ところが前述した原油価格の高騰とワールドカップ開催が追い風となり、かつての旧態依然とした競技施設に代わって最新のスタジアムが各地に建設されることとなった。国体用に作られた日本の競技施設と比べると、その差は一目瞭然。ロシアでの快適な観戦環境に驚く一方、わが国のスタジアム建設の立ち遅れをたびたび痛感することとなった。
 
 ロシア大会で不便を感じることがあるとすれば、まず英語があまり通じないこと。次に、キリル文字だけの表示が多いこと、地下鉄や鉄道に乗る時でもセキュリティーチェックが必要なこと、そして飛行機の国内線がよく遅れることなどが挙げられよう。キリル文字については、たった33文字しかないので、この機会に覚えることをお勧めしたい。それ以外の不便は、慣れてしまえばさほど困ることはないだろう。大丈夫、来年のロシアでのワールドカップは、きっと愉快で快適な大会となるはずだ。もちろんその前に、日本代表が無事にワールドカップ最終予選を突破していることが大前提なのだが。
 
宇都宮徹壱/うつのみや・てついち 1966年、東京都生まれ。97年より国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。近著に『フットボール百景』(東邦出版)。自称、マスコット評論家。公式ウェブマガジン『宇都宮徹壱ウェブマガジン』。http://www.targma.jp/tetsumaga/
 
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