【蹴球日本を考える】相手の力量が見えていれば山口や長友、倉田のような守備はあり得ない

2017年06月08日 熊崎敬

敵の力量が上がると攻撃的な守備は「不用意な守備」になりかねない。

1対1で競り合う吉田。アグレッシブな守備は時としてリスクを伴うこともある。写真:田中研治

 1週間後のイラク戦は、負けなければよしとすべきかもしれない――。1-1で引き分けたシリア戦は、そう思わざるを得ないほど冴えなかった。
 
 前半の日本は攻守に後手を踏み、シリアに主導権を握られた。
 シリアはなかなかいいチームで、一人ひとりがプレッシャーにさらされても慌てない。派手さはないが堅実にパスをつなぎ、力強いドリブルで陣地を稼ぐ。デュエルでも日本を上回った。
 
 ボールを支配された日本は選手間の距離が間延びし、前線の動きも鈍かったため、単調なロングボールに終始した。屈強なシリア人が待ち構えるところに放り込んでは、チャンスはなかなか生まれない。
 
 それでも後半、日本は本来の動きを取り戻した。主導権を奪い返し、最終ラインが大きく押し上げたことで距離感が改善。随所に長所であるコンビネーションが生まれた。
 
 もっともこれは日本が持ち直したというより、シリアの動きが落ちたことが最大の要因だろう。アルハキム監督は、長旅に加えてラマダン(断食月)の影響を試合後に認めていた。
 
 結果も内容ももうひとつだった日本だが、収穫はある。2年2か月ぶりの代表復帰を果たした乾だ。
 
 原口に代わって左サイドに入ると、切れ味鋭いドリブルで敵陣を切り裂き、次々とチャンスをお膳立てした。2階席の記者席から見ていても、ボールを触る最後の瞬間まで、どんな軌道でドリブルするか分からない。右か左か真っ直ぐか。上から見ていても分からないのだから、平面で対峙している敵にとっては「消える」ドリブルに見えたのではないだろうか。
 原口と乾。左サイドのドリブラーふたりが、イラク戦のキーマンになるかもしれない。
 
 シリア戦の課題と収穫について書いてきたが、私がいちばん気になったのは別のところにある。飛び込みすぎる守備だ。
 
 試合中、私は二度、「あ」と声を上げた。
 
 一度目は22分、中盤での敵のパス交換に山口と長友が飛び込んでいったシーンだ。ふたりは見事に外され、シリアは加速。ペナルティエリアに侵入された。
 
 二度目は48分、シリアのショートコーナーに倉田が不用意につっかけ、外されてクロスを放り込まれた。一度目は事なきを得たが、この時はヘディングシュート決められた。
 
 日本では積極果敢に奪いに行く守りは「攻撃的な守備」と呼ばれて、ポジティブなイメージがある。実際にJリーグでも、攻撃的な守備を見せるチームは少なくない。
 
 だが敵の力量が上がると攻撃的な守備は不用意な守備になりかねない、ということを忘れてはならない。このあたり、倉田は文字通り不用意だった。コースを抑えながら、じっくりと対峙すれば良かったものの、さらしたボールに誘われて飛び込んでかわされ、狙いすましたクロスを入れられる羽目になった。
 
 シリアにそれなりの力量がある、というのは開始15分くらいで分かっていたこと。Jリーグと同じ対応をしたというのは、敵が見えていないのかもしれない。
 
 こういうプレーを見ると、イラク戦は大丈夫かと不安になる。引き分けで満足すべきかもしれない。
 
取材・文:熊崎 敬(スポーツライター)
 
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