【連載】蹴球百景 vol.17「『50年先』を見越したマスコット作りを!」

2017年05月20日 Jリーグ

J2とJ3でそれぞれ新たな動きが。

今年のマスコット総選挙での一枚。最近はマスコットの生誕ラッシュが続いている。写真:宇都宮徹壱(Yokohama 2017)

 久々にマスコットについて書かせていただく。最近、Jクラブのマスコットに関して、ふたつのトピックスがあった。まずはJ3の盛岡。エンブレムにも描かれているツルをモチーフにしたデザイン4案を発表。インターネットによる人気投票によって決定する旨が発表された。そしてJ2の讃岐。これまで同カテゴリーで唯一、マスコットがいないという負い目を克服しようとしたのか、ついにデザインを発表。名前については、一般から募集して決定するとしている。どちらもネットで話題になったので、ご存じの方も多いはずだ。
 
 言うまでもなくマスコットは、Jリーグのライセンスの案件には入っていない。つまり試合を開催する上で「絶対に必要不可欠なもの」とはなっていないのである。それでも、ここ最近は(特にJ3で)マスコットの生誕ラッシュが続いている。思いつくままに挙げると、相模原のガミティ、鹿児島のゆないくー、そして琉球のジンベーニョ。これらの3体は、ちょうど今季の開幕とマスコット総選挙のタイミングもあり、発表を急いだものと思われる(実際、ゆないくーは総選挙の時点で3Dはなかったし、ジンベーニョは名前さえなかった)。
 
 マスコットがクラブにもたらすメリットは小さくない。まず、グッズ展開の可能性が格段に広がる。SNS戦略においてもマスコットは実に使い勝手が良い。3Dを作れば、試合以外でのファンやサポーター(とりわけ家族連れ)とのタッチポイントが増える。それ以前に「マスコット作ります!」とか「名前を募集してます!」と告知すれば、それだけでメディアの注目も集まる(普段なかなか中央のメディアに取り上げられることのない、J2やJ3クラブにとっては非常に重要なことだ)。よって、これまでマスコットがなかったクラブが、相次いで開発に急ぐ気持ちも分からないではない。
 
 しかし最近の一連の「マスコット誕生ラッシュ」には、ある種の危うさを感じてしまう。「もしかして皆さん、ゆるキャラでも作っているような感覚でいません?」という疑念が、どうしても拭えないのだ。サッカーファンには言わずもがなであろうが、マスコットとゆるキャラは違う。一過性のイベントやキャンペーンのために作られるゆるキャラと、クラブとともに20年、30年、あるいはそれ以上に渡って歩んでいくマスコットとでは、比較にならないくらいの重みと責任があるのだ。だからこそマスコットの製作には、それこそスタジアム建設と同じくらいの覚悟と誠実さがクラブには求められるのである。
 
 そういえば盛岡は、折り鶴型の『キヅール』がアンケートで1位となったが、あれを採用する覚悟があるのだろうか。それから讃岐は、かつてマスコットのデザインを依頼した漫画家のいしかわじゅん氏に対して、誠実に仁義を通したのであろうか。「マスコット誕生!」で盛り上がるのは結構だが、クラブ側に覚悟と誠実さがなければ不幸を背負うのはマスコット自身である。これからマスコットを製作しようと考えているクラブは、まずそのことをしっかり肝に銘じていただきたい。そして「50年先」を見越したマスコット作りを、ぜひ実現させてほしいものだ。
 
宇都宮徹壱/うつのみや・てついち 1966年、東京都生まれ。97年より国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。近著に『フットボール百景』(東邦出版)。自称、マスコット評論家。公式ウェブマガジン『宇都宮徹壱ウェブマガジン』。http://www.targma.jp/tetsumaga/
 
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