【青森山田】引き継いだ驚異のロングスローと専用タオル、そしてもどかしくも熱すぎる郷家友太の自己主張

2017年01月12日 安藤隆人

「(高橋)壱晟さんのように中で合わせたかった」

今大会、ロングスローでチャンスを作り続けた郷家。変幻自在な動きを見せる攻撃的MFとしても注目される存在だ。写真:小倉直樹(サッカーダイジェスト写真部)

 今大会、青森山田の試合には、敵陣のピッチサイドに白いタオルが置かれていた。それはロングスローを投げるMF郷家友太の『専用タオル』で、スローインになると、そのタオルでボールを拭いて滑らないようにしてから、ロングスローを投げる。
 
 このタオルは昨年から置かれるようになったものだった。昨年はロングスローの名手・原山海里(東京学芸大)がおり、彼の驚異的なスローインはチームの得点源のひとつになっていた。そこでより質の高いボールを毎回投げられるように、タッチライン付近にタオルを置くようになったのが始まりだ。
 
 この『原山タオル』を引き継いだのが、郷家だった。原山と一緒にスローインをやっていた際に、原山が郷家にロングスローを投げられる素質があると見抜いて、そのノウハウを徹底して植え付けられたことが始まりだった。春先はそこまでの飛距離ではなかったが、徐々に距離とライナー性のボールが投げられるようになり、秋も過ぎると、そのロングスローもまた相手にとって脅威になるようになった。そのため、今大会から『郷家タオル』が置かれるようになったのだ。
 
 そして、この郷家タオルも功を奏し、青森山田は今大会、郷家のロングスローから3得点を叩き出した。そのうちの1本はチームを2度目のファイナルに導く、MF高橋壱晟の決勝弾を生み出した。
 
 猛威を振るった郷家のロングスロー。しかし、当の本人はこの結果に満足とは程遠い想いを抱いていたのだった。
 
 決勝後のミックスゾーンで、彼は本音を口にした。囲みの輪が解け、筆者と2人になった時、改めて訊いてみた。
 
――今大会、自分のインパクトは残せたと感じる?
 
 すると、彼は口を真一文字に結んでから、ゆっくりと本音を語った。
「この大会で『ロングスローの郷家』という印象がついてしまった……。それは僕の本意ではないんです」
 
 そして、彼の強烈な自覚と危機感が吐き出された。
「僕はプロになりたいけど、現時点ではなれるほどではないと思います。今大会は『自分=ロングスロー』というイメージの方が大きいと思うので、来年はロングスロー以外のゴールとアシストでスカウトの人に目を付けてもらいたい」
 
 優勝した後とは思えない、鋭い眼光で語った郷家。彼に向けて、「やっぱりより自分がゴールを奪える場所にいたいんだね」と話すと、「そうです。ロングスローは自分じゃない人が投げてほしい。壱晟さんのように中で合わせたかったです」と自らの想いを包み隠さずに答えた。
 
 来年は自分がエースとしてゴール前で決定的な仕事をこなす。今大会でついてしまった自分のイメージを払拭し、本物の『郷家友太』を見てもらいたい――。
 
 決勝の後に見せた強烈な自己主張。それはすなわち、新しいシーズンへの決意の表われだった。
 
取材・文:安藤隆人(サッカージャーナリスト)
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