【横浜】去就が注目される齋藤学。今は「F・マリノスを強くするために戦う」だけ

2016年12月25日 藤井雅彦

GKの動きをよく見て、優しいタッチのPKを決める。

齋藤にとっては横浜の一員として初めて蹴るPK。この1点と、終了間際の天野のゴールで、横浜がG大阪を下し4強入りを果たした。写真:滝川敏之(サッカーダイジェスト写真部)

[天皇杯準々決勝]横浜F・マリノス2-1ガンバ大阪/2016年12月24日/日産スタジアム
 
 背番号11がエリア内右寄りで金正也に倒される。主審の家本政明は迷うことなくペナルティスポットを指さした。
 
 PKを獲得した齋藤学は毅然とした態度でボールをセットし、GK藤ヶ谷陽介の動きをよく見て左側に決めた。全力で打ち抜く一撃ではなく、ゴールネットに包み込まれるような優しいタッチのシュートだった。
 
 意外にも、横浜の一員として初めて蹴るPKだった。愛媛に期限付き移籍していた11年にキッカーを務めたことはあったものの、横浜には中村俊輔やマルキーニョス(12~13年に在籍)といった成功率の高い"名手"が存在した。今季に関しては「蹴ろうと思ったらカイケに取られた」と笑って話したとおりで、今回は文句なしにキッカーを務めた。
 
 ここでひとつの疑問にぶつかる。中村はベンチに控えていたが、仮にピッチにいたらどうだっただろうか。齋藤自身がファウルを誘い、獲得したPKである。以前から「自分で獲得したPKなら、絶対に自分で蹴って決める」と立候補していた。有言実行の先制ゴールは、準決勝以降のPKキッカー争いにおける布石になったかもしれない。
 
 先日開催されたJリーグアウォーズではベストイレブンに選出され、名実ともにリーグを代表するアタッカーへと成長した。リーグ屈指の攻撃力を誇る川崎から獲得のラブコールが舞い込み、今後は欧州クラブからオファーが届く可能性も十分ある。横浜との複数年契約は今季限りで満了となるため、身の振り方を決める権利を持っているのは自分自身だ。
 
 決断や発表といった事象は天皇杯を戦い終え、シーズンが終わってからになるだろう。ただ、G大阪を破って準決勝に進出した同大会に強い覚悟を持って臨んでいることは確か。「F・マリノスを強くするために戦う」。発した短い言葉には並々ならぬ決意が感じられる。
 
 昨今の横浜はピッチ内外で大きく揺れている。クラブ単体ではなく、親会社である日産自動車や、資本提携するシティ・フットボール・グループとのスムーズさを欠く関係性が、その要因となっている。
 
 しかし齋藤には泰然自若という四字熟語がよく似合う。試合に向けた準備段階では居残りでフィジカルトレーニングやシュート練習など黙々とルーティーンをこなし、心身ともに高いレベルを維持している。その男が試合を動かす快活なパフォーマンスを見せるのは必然だ。
 
 PKを決めた直後、齋藤は胸に輝くエンブレムを強調した。「若手をもうひとつ上に連れていくために次も勝たないと」。エースとしての自覚を携え、トリコロールをけん引する。
 
取材・文:藤井雅彦(ジャーナリスト)

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