【連載】蹴球百景vol.5「太極戦士への冷めた眼差し」

2016年11月19日 宇都宮徹壱

違和感を感じた応援スタイル。

ウズベキスタン戦で韓国代表を応援するサポーターたち。しかし、スタンドは空席が目立った。写真:宇都宮徹壱(Seoul, Korea Rep. 2016)

 日本とサウジアラビアによる、ワールドカップ・ロシア大会アジア最終予選が行なわれた11月15日。思うところがあって、裏のグループの韓国対ウズベキスタンの試合を、チケットを購入して現地観戦してきた。ここまで2勝1分1敗の3位と後がないことから、韓国ではこの試合をウリ・シュティーリケ監督の首が懸かる「ギロチンマッチ」と位置付けていた(結果は、終了間際のク・ジャチョルの劇的な逆転ゴールにより、韓国が2-1で勝利)。
 
 思えばアジアの国際大会以外では、観戦機会が限られていた韓国。久々に現地を訪れてみると、代表に対するファンの眼差しが少なからず変化していることに気付かされた。まず驚いたのが観客の少なさ。6万6704人収容のスタジアムに、半分以下の3万526人しか入らなかった。「シュティーリケを解任せよ!」という世論と「負ければ終わり」というこの試合の重要性を考えると、この客入りの悪さは非常に気になるところだ。
 
 では、客層はどうか。私が購入したチケットは、バックスタンドの最前列で価格は5万ウォン(およそ4500円)。周囲を見渡してみると、やはりライト層が多い。ただし日本のライト層と大きく異なるのは、ユニホームの着用率が驚くほど少ないことだ。寒さゆえに、レプリカシャツ姿で観戦するのは確かに厳しい。でもだったら、赤いマフラーやニット帽などを身につければいいのにと、つい余計なことを考えてしまう。
 
 そして最大の違和感が応援スタイルだ。会場のアナウンスに促されて、配布された紙の太極旗を掲げながら「さあ皆さん、ご一緒に!」という感じで「テーハミング(大韓民国)!」とコールをする。何だかBリーグの試合を見ているような気分になる。思えば2002年のワールドカップでは、スタンドから自然発生的に「テーハミング!」と連呼したものだ。少なくともサッカーの応援というものは、スタジアムDJ主導で行なわれるものではない。
 
 ところで代表戦当日は、平日にもかかわらずパク・クネ大統領の政治スキャンダルを糾弾するデモが各地で行なわれていたようだ。今の韓国社会は「サッカーどころではない」という雰囲気なのだろうか。あるいは、韓国国民の「太極戦士(テェグック・チョンサ)」への眼差しというものが、2002年から1周回って冷めてしまっているのかもしれない。それとは別に、もうひとつの理由として考えられるのが、日本代表との真剣勝負が行なわれなくなったことだ。
 
 東アジアカップやアジアカップなど、公式戦では何度か対戦している両国だが、これがワールドカップ予選となると1997年にまで遡らなければならない。ロシア大会の最終予選も、両国は別グループに組み込まれた。とはいえ、もし日韓が最終予選で3位に終わり、プレーオフで対戦するとなったら──いやいや、いくら盛り上がるといっても、絶対に実現してほしくないシチュエーションである。
 
 年内最後の最終予選は、日本も韓国も2−1で勝利。いずれも3勝1分1敗の勝点10で、揃って2位に浮上した。プレーオフに回って隣国と当たりたくないというのは、おそらくあちらも同じ想いだろう。
 
宇都宮徹壱/うつのみや・てついち 1966年、東京都生まれ。97年より国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。このほど『サッカーおくのほそ道』(カンゼン)を上梓。自称、マスコット評論家。公式ウェブマガジン『宇都宮徹壱ウェブマガジン』。http://www.targma.jp/tetsumaga/
 
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