【東京V】永井秀樹の切なる想い――現役を去った45歳は後世に何を託したか?

2016年11月16日 海江田哲朗

「結局、自分は何ひとつ達成できなかった」。

93年のJ開幕からプレーする永井がついに引退。ホーム最終戦のセレモニーでは、声を震わせながら、底なしの“ヴェルディ愛”とともに別れを告げた。(C)J.LEAGUE PHOTOS

 溢れる涙が止まらない。
 
「自分自身、誇りに思えることがふたつだけあります。ひとつは、子どもの時から大好きだった読売クラブ、ヴェルディでプロサッカー選手になれたこと。そして、もうひとつはこの愛するヴェルディで現役を引退できることです」
 
 11月12日、C大阪戦後の引退セレモニーで、永井秀樹は声を震わせて語った。45歳。今季のJリーグ所属では、49歳の三浦知良(横浜FC)に次ぐ年長選手だった。
 
 25年もの長きにわたり、プロの世界を生き抜いてきた。国見高、国士館大を経て、92年にヴェルディ川崎に加入。その後、福岡、清水、横浜フリューゲルス、横浜FM、大分、琉球などでプレーし、数々のタイトル獲得に貢献する。2014年、東京Vに7年ぶり5度目の復帰を果たし、3シーズンを過ごした。
 
 永井は引退を決めた理由を次のように話す。
 
「年齢的には1年1年が勝負で、とくに今年は二度の怪我により約8か月もピッチに立てませんでした。自分の考えるプロサッカー選手として、それは失格です。一生懸命がんばっている若い選手にも失礼というか、申し訳ない気持ちがありました」
 
 全体練習終了後、若手を集める居残り練習は、徹底した基礎技術の定着を目的としていた。いつしか"永井塾"と呼ばれ、その場で豊かな経験と技術を譲り渡していった。
 
「子どもの頃から日本代表を目指し、ワールドカップ出場、世界で活躍する選手を夢見てきましたが、結局、自分は何ひとつ達成できなかった。サッカーの基本である、止める、蹴るといった基礎が自分はできているつもりでしたが、できていなかったというのが結論です。少なくとも世界の基準に達していなかった。自分が叶えられなかった望みを、若い選手たちに託したいという気持ちから始めたことです」
 
 C大阪戦でゴールを決めた澤井直人は、永井の薫陶を受けた筆頭格だ。
 
「永井さんから褒められたことは、ほぼないですね。そう簡単には『いいぞ』と言ってもらえないんですよ。それでも、良いプレーとダメなプレーの基準は分かるようになり、『この人に認められたい』と、その一心でやってきました」
 
 ゴール前、高木善朗からのパスを永井がスルーし、澤井がワンタッチで高木大へ。澤井はリターンパスを正確にコントロールし、冷静にシュートを決めた。一連のプレーには、永井の教えが凝縮されている。一番弟子が師匠に捧ぐ餞別のゴール。これ以上のはなむけが他にあろうか。
 
「現状、苦しい時期ではありますが、必ずやヴェルディは復活します。それはこの3年間を過ごした自分のなかにある確信です。ヴェルディを愛する皆様、もう一度チャンピオンに返り咲き、日本サッカーを引っ張るリーディングクラブになるその日まで、いや、その先も永久にずっと、ヴェルディをお願いします」
 
 永井は壇上から大勢のサポーターにそう呼びかけた。この緑のシャツには、己のすべてを懸けるにふさわしい価値がある。身をもって示した永井の思いは、東京Vを支える人々によって受け継がれてゆく。
 
取材・文:海江田哲朗(フリーライター)
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