【横浜】 先制弾の舞台裏。伊藤翔に「打つしか選択肢がなかった」のはなぜか?

2016年10月10日 古田土恵介(サッカーダイジェスト)

「コースは狙い通りだけど、あれが目一杯」

中町からのスルーパスに抜け出すと、右足を一閃。勝利必須のゲームで先制点を決めた伊藤だったが、この時点で異変を感じていた。写真:滝川敏之(サッカーダイジェスト写真部)

[ルヴァンカップ・準決勝第2戦]横浜 1-1 G大阪/10月9日/日産ス
 
 サイドに流れる、スルーパスを受ける、右足を振り抜く――。

 伊藤翔はこの3動作で角度のない位置からボールをサイドネットに突き刺し、56分に待望の先制点をチームにもたらした。
 
 だが、その1分後にはジェスチャーで自ら交代を申し出て、59分には担架に乗せられてピッチを去ることになる。一体、G大阪にイニシアチブを握られる展開を打破したFWに何が起こったのか。
 
「まず、90分間戦えなかったのは残念。マチ君(中町公佑)からボールをもらおうと裏に抜けた際に、『太腿裏がおかしいな』と。ドリブルができないから、打つという選択肢を選ぶしかなかった。
 
 コースは狙い通りだけど、あれが目一杯。1戦目と同様にあまりボールをつなげられないなかでのゴールだし、取れたのは嬉しかったけど……痛くてあまり喜べなかった」
 
 確かに大きく喜びを表現しなかった姿は、逆に印象的ではあった。得点者には笑顔もほぼない。1戦目は0-0の引き分けだったために勝利必須のゲームで、その瞬間は大きく決勝を引き寄せていただけに、少し不可思議なシーンだったが納得がいった。
 
「次のプレーをやってみようかなとも思ったんですけどね。さっきも話したように、シュートを打つ前、トラップをする前くらいの時点で異変があった。考えていた以上に痛くて、これは無理だな、と。それで自分から『代えてくれ』とベンチに言って、交代した」
 
 ミックスゾーンでは淡々と得点と交代のシーンを振り返ったが、無念でないわけがない。ゴールは奪った。スタジアムを沸かした。しかし、敗戦と同義の引き分けとなってしまったのだ。
 
「結果的に、僕らは準決勝を通過できなかった。なんていうか……これが実力だとしっかりと受け止めて、自分たちをちゃんと見つめ直して、またやっていかなきゃと思う」
 
 スポーツを「たら、れば」で語ってはいけない。それは十分に理解している。だが、それでも、「伊藤が負傷せずにピッチに残っていたら」と考えてしまう。もしかしたら、違う結末が待っていたのだろうか。
 
 その前に、背番号16のファインゴールが生まれていなかった可能性だってある。あの得点は、シュート一択だったからこそ記録されたのかもしれないのだ。
 
 単なる実力不足――。殊勲者となりながらも勝者になれなかった男の言葉が響く。現実とすぐに向き合うメンタル、敗戦の理由を自身に求める謙虚さ。決勝へと進めなかった経験を糧に、次に沈めるゴールが勝利への一撃であることを願ってやまない。
 
取材・文:古田土恵介(サッカーダイジェスト編集部)
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