【鳥栖】たとえ理想的でなくとも――石川啓人が残した確かな一歩と次につながる後悔

2016年10月03日 古田土恵介(サッカーダイジェスト)

「(あのシーンは)練習だったら決められていたかな」

デビュー戦にも浮き足立つことなく、ピッチに入った1分後にはこぼれ球に反応してシュート。しかしGK正面で「後悔がある」。(C) J.LEAGUE PHOTOS

[J1第2ステージ14節]鳥栖 2-3 仙台/10月1日/ベアスタ
 
 理想的かつ衝撃的なJリーグデビュー戦――とは、残念ながらならなかった。
 
 1-2と1点を追う72分、鎌田大地に代わって石川啓人が投入された。U-18に所属する高校3年で、今季は2種登録でトップチームに帯同。第2ステージ12節・広島戦からはベンチに入っていた。
 
 その背番号40がついにピッチに足を踏み入れた。まずは谷口博之、続いて高橋義希から声を掛けられる。スローインからのリスタートで、首を振って周囲を確認すること実に7回。地に足は付いているようだった。
 
 それから約50秒。「後悔がある」シーンがいきなり訪れる。再度のスローインから、こぼれ球が転がってきた。ペナルティアーク付近、ゴールほぼ正面。石川は躊躇する素振りなどまったく見せずにシュートを打った。
 
 低空で、強烈なボールが仙台ゴールを襲う。だが、コースはGK正面。思い切りの良さが評価されるワンシーンになるのだろうが、本人の感触は違っていた。
 
「(あのシーンは)練習だったら決められていたかな。もっと振り抜けば良かったと思うし、試合が終わってから、ロッカールームでみんなに『決められただろ』って言われて。そう考えると、後悔がある」
 
 大袈裟でも強がりでもなく、たぶん、その通りなのだろう。ボールに触れる寸前に、ここでも首を振って状況を整理。ゴールとGKの位置も頭に入れて、しっかりと狙いを定めたはずだった。
 
「試合でシュートを打つチャンスはそんなに多くない。だからこそ、練習から積極的に打っていかないと、本番で入るはずがない」
 
 もし決められていれば……。そんな後悔を残す敗戦で、石川は何を手にするのか。まず、同年代のほとんどが成しえていない経験。それによる成長速度の加速。
 
「緊張はあまりしなかったけど、プレースピードが思ったより速かった」という、少しの戸惑いも、今後は徐々に適応できていくだろう。立場が人を作るように、J1という戦場を普通の場所と考えられるようになれば、必然的に若い芽は伸びるはずだ。
 
 今季のJ1リーグも残すところ3試合となった。最高のデビュー戦にはできなかったものの、出場した事実自体が石川にとっては最良の出来事になったことだろう。
 
 次こそは「決められただろ」ではなく、「おめでとう」という祝福を受けられるように。願わくば、鳥栖の未来を明るく照らせるように。ホームで敗れた一戦で、決して小さくない希望の光と言える18歳の旅路が、やっと始まりを迎えた。
 
取材・文:古田土恵介(サッカーダイジェスト編集部)
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