「出所は2027年?」ロビーニョ服役の全事情――塀の中の暮らしと息子のプレーを見守る日々【現地発】

2025年12月08日 リカルド・セティオン

「有名人の刑務所」で

服役中のロビーニョ(左)。息子ロビーニョ・ジュニオール(右)のプレーをその目で見られる日は、はたしていつになるのか。(C)Getty Images

 サントス、レアル・マドリー、マンチェスター・シティ、ミランなどで活躍したロビーニョ。ブラジル代表でも100キャップを誇る押しも押されもせぬブラジルのスターだが、そんな彼は今、塀の中にいる。2013年にミラノのナイトクラブで女性を集団で強姦した罪によりイタリアで起訴され、審理の末、有罪が確定した。
 
 刑務所生活を経験した選手(元選手)は残念ながら少なくない。1960年代から70年代にかけてのイングランドのスター、ジョージ・ベストは飲酒運転で3か月間服役したし、同じくイングランド代表歴のあるアダム・ジョンソンは未成年との性的関係を持った罪で約3年服役。ポール・ガスコインも傷害事件などで何度か逮捕・拘留されている。
 
 ダニエウ・アウベスは、性的暴行の嫌疑によりスペインで数か月間収監された。また、ロナウジーニョは旅券偽装の罪でパラグアイで約半年間、刑務所暮らしを余儀なくされた。
 
 しかし――ロビーニョのように長期の判決を受けた者はそう多くはない。
 
 もちろん、自らの子どもを身籠った女性を殺害させた罪で22年の判決を受けた元フラメンゴのGKブルーノのような前例もあるが、それでも彼は数年で釈放されている。ロビーニョは最終的に9年の実刑判決を言い渡された。ブラジルとイタリア間の法的合意により、24年3月からブラジルの刑務所で服役している。もし懲役9年をそのまま務めるなら、出所できるのは2033年である。
 
 彼が最初に収監されたのはサンパウロ州にあるドクター・ホセ・アウグスト・セサル・サルガド刑務所――通称P2トレメンベ。ここには悪名高い殺人犯や汚職政治家、有名ハッカーなど世間を騒がせた犯罪者がいることから、「有名人の刑務所」とも呼ばれている。9平方メートルから15平方メートルの共同房があり、ひとつの共同房に最大6人まで収容。約400人以上の受刑者が服役している。
 
 少し前にロビーニョが塀の中で特別扱いを受けているという記事が出て世間を騒がせたが、彼は支援団体を通してビデオを公開し、その噂を否定している。
 
「私は何の恩恵も受けていない。面会は週に一度で皆と同じだし、食事も睡眠時間も作業内容も他の受刑者と全く同じだ」
 
 刑務所内のロビーニョは課せられた作業のほかに、さまざまなコースを受講している。最近ではラジオ、テレビ、電子機器のセットアップ方法を勉強しているようだ。毎週日曜日の休みには囚人たちとサッカーもしている。

 ここでは本を1冊読むごとに刑期が1日、また決められたこと以外に自発的に仕事をすれば12時間ごとに刑期が1日減額されることになっている。ロビーニョは読書クラブに所属し、刑務所の菜園の手伝いもしているので、ここまでで69日間の刑期が短縮された。
 
 この11月19日には、素行が良く、初犯であるということからリメイラ社会復帰センターに移された。ここは受刑者とその家族との交流を促進し、受刑者向けのトレーニングコースなどのプログラムを開発し、子どもたちの学校の休暇中に学校の塗装をしたり、街の広場や共有エリアのメンテナンスを行ったりするなど、地域社会に貢献するよう受刑者に奨励することに重点を置いている。
 
 これはロビーニョにとっては嬉しいことだった。リメイラは比較的模範囚が多く、刑務所内で危険な目に遭う可能性も低い。また、彼の家族が住むサントスにも近くなり、家族が彼を訪ねてきやすくなった。すべてがうまくいけば、2027年には出所できるかもしれないとも言われている。
 
 目下の彼のいちばんの夢は、息子のプレーをその目で見ることだろう。ロビーニョ・ジュニオールは16歳という若さで父の古巣でもあるサントスのトップチーム入りを果たし、今年の7月にはプロデビューも果たし、すでに10試合以上に出場している。
 
 一気にトップスピードに乗る巧みなドリブルや、素早く細かいタッチ、フェイントで敵を抜く姿は紛れもなく父親譲りだが、そのプレーは父親ほど芝居がかっておらず、素直さがある。親を真似するのではなく、知性と想像力を駆使して、より高みへ行こうとしている。
 
 そんな彼をサポートするのはチームメイトのネイマールだ。
 
「僕が君と同じく17歳でキャリアを始めたころ、君のお父さんにとても助けられた。だから今度は僕が君を助ける番だ」
 
 ロビーニョが収監された日に、彼はそうロビーニョ・ジュニオールに約束している。
 
 父ロビーニョは刑務所のテレビで息子の活躍を逐一チェックしているようだ。こればかりは刑務所長から特別な許可を得ているという。同房者の話によると、息子がフィールドに入ると、ロビーニョはテレビに近づき、彼がファインプレーを見せれば狂ったように歓声を上げるのだそうだ。
 
取材・文●リカルド・セティオン
翻訳●利根川晶子
 
【著者プロフィール】
リカルド・セティオン(Ricardo SETYON)/1963年8月29日生まれ、ブラジル・サンパウロ出身。ジャーナリストとし中東戦争やユーゴスラビア紛争などを現地取材した後、社会学としてサッカーを研究。スポーツジャーナリストに転身する。8か国語を操る語学力を駆使し、世界中を飛び回って現場を取材。多数のメディアで活躍する。FIFAの広報担当なども務め、ジーコやカフー、ドゥンガなどとの親交も厚い。現在はスポーツ運営学、心理学の教授として大学で教鞭も執っている。
 
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