「戦略」と「戦術」はまったく別物。整理するだけで、見違えるような成果を生み出せる【小宮良之の日本サッカー兵法書】

2025年12月02日 小宮良之

ごちゃ混ぜになることも少なくない

昨季に17位だった柏はここまで2位と躍進している。写真:永島裕基

「戦略」
「戦術」

 二つの言葉はサッカー界で頻繁に使われるものだが、ごちゃ混ぜになることも少なくない。言うまでもないが、それぞれの意味は違う。指導者や解説者の中には二つを対のように扱うものもいるようだが、それも明確な誤りだ。

 戦略は、コンセプト、方向性、または道筋を指している。長期的な視点で、資源や戦力をどのように使うか。大局における優位性を目指した指針のようなものである。たとえば、"スリリングな試合で観客を魅了する"という主題を掲げ、そのために必要なキャラクターの監督、選手を集め、一貫したマネジメントを試みるのだ。

「美しく敗れることを恥と思うな、無様に勝つことを恥と思え!」
 
 御大ヨハン・クライフがFCバルセロナの土台にしたプレー概念は、今もバルサの進むべき道を明るく照らしている。これぞ、伝統に根差した最上の戦略と言えるだろう。

 一方で、戦術は局面で勝利する術と言える。スペースをどう作り、どう使って、時間をどうやって作り、タイミングを合わせ、相手を出し抜くことができるのか。軍事的には小戦闘を思い浮かべたらいいし、マーケティング的にはSNSでキャンペーンを張るといったところだろう。小さな局面の勝利を全体に伝え、具体的に流れにつなげるのだ。

 サッカーで言えば、高い技術とコンビネーションの組み合わせによって、スモールスペースを機動力で制することができるか。あるいは、前からプレスをはめ込んで、とりどころで強度を上げ、攻守の切り替えで勝負する。局面での意図を持ったアクションだ。
「(キリアン・)エムバペこそ、戦術」
 
 特級レベルの選手を戦術そのものとする表現があるが、これも間違いではない。たった一人でも局面を打開できてしまえば、それは立派な戦術である。先日、チャンピオンズリーグのオリンピアコス戦、レアル・マドリーのエムバペは4得点を記録し、4-3の勝利に貢献したが、典型と言えるだろう。

 つまり、戦術はあくまで戦略の枠の中にあるもので、戦略が戦術を決定づけるものである。だから4-2-3-1も、プレッシングも、ハイラインも、戦略に照らし合わせた構造だったら、それは戦術に分類される。

 二つの言葉がごちゃ混ぜになることで、現場が力を発揮できない状況は生まれる。戦略、戦術を整理し、筋道がしっかりするだけで、見違えるような成果を生み出せる。

 2025年シーズン、残留争いから一転して優勝争いを繰り広げている柏レイソルは一つの例だろう。やるべきことがはっきりしただけで、選手は変身することができるのだ。

文●小宮良之

【著者プロフィール】こみや・よしゆき/1972年、横浜市生まれ。大学在学中にスペインのサラマンカ大に留学。2001年にバルセロナへ渡りジャーナリストに。選手のみならず、サッカーに全てを注ぐ男の生き様を数多く描写する。『選ばれし者への挑戦状 誇り高きフットボール奇論』、『FUTBOL TEATRO ラ・リーガ劇場』(いずれも東邦出版)など多数の書籍を出版。2018年3月に『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューを果たし、2020年12月には新作『氷上のフェニックス』が上梓された。

【記事】「大惨事だ」「信じられない」"アジア2位"の強豪がFIFAランク142位に衝撃の敗戦!まさかの予選敗退に海外騒然「最強クラスに勝つとは…」

【画像】長澤まさみ、広瀬すず、今田美桜らを抑えての1位は? サカダイ選手名鑑で集計!「Jリーガーが好きな女性タレントランキング」TOP20を一挙紹介

【画像】日本は何位? 最新FIFAランキングTOP20か国を一挙紹介!"アジア2位"が20位に浮上、トップ10から転落した強豪国は?
みんなにシェアする
Twitterで更新情報配信中

関連記事