J1初挑戦で見事な残留。予算規模が限られ20番目からのスタートも「称賛してあげたい」木山隆之監督も語った岡山の素晴らしき戦いぶりと街やサポーターの熱

2025年11月09日 本田健介(サッカーダイジェスト)

川崎戦は意地のドロー

土壇場で同点弾を上げた松本。チームも初のJ1で残留を決めた。(C)SOCCER DIGEST

[J1第36節]川崎 1-1 岡山/11月8日/Uvanceとどろきスタジアム by Fujitsu

 心を熱くするような意地のドローであった。

 シーズンも残り3試合、J1初挑戦の岡山にとって川崎戦は、勝点1でも上積みすれば、来季もJ1で戦える権利を得られる大事な一戦だった。

 結果的には1時間先にキックオフされていたゲームで18位の横浜FCが鹿島に敗れたため、その時点で岡山の残留は決まり、ベンチにはその情報は伝わっていたという。だが、敵地で84分に右ウイングバックの松本昌也が頭でシュートブロックしたボールがネットに吸い込まれて失点したなか、試合終了間際にMF佐藤龍之介の左からのクロスに、松本が頭で合わせて同点に追いつき、自力でもJ1残留を決めてみせたのだ。

「全体的に見ると、自分たちはしっかりプレーしたと思います。もちろん残留が頭にありながらなかなか決め切れない1か月間くらいで、選手たちもちょっとストレスを抱えていた感もありましたが、今日は吹っ切れてプレーしていたと思います。相手のことは分かりませんが、我々は我々らしくしっかり攻守でやっていたんじゃないかなと。

 点がなかなか取れないのが当然、我々の課題であったり、今のチーム力かもしれないですが、自分たちのプレーをしっかりできたと思います。1点を取るために選手を変えていきますが、逆に相手の圧に負けて守り切れずに先に失点してしまうのは課題と言えば課題かもしれないし、僕自身に課せられた問題かなと思いますが、今日はひとつ最後選手たちの頑張りで1ポイント獲れたのは選手たちを称えないといけないかなと。トータルすると悪いゲームではなかったですし、1年間しっかり戦ってきた選手たちを称賛してあげたいと思います」

 木山隆之監督も胸を張って振り返った。

 初のJ1に挑戦したシーズンは"岡山旋風"を巻き起こす1年だった。ホームゲームのチケットは完売が続き、その熱に背中を押されるようにチームも粘り強い戦いを貫いた。指揮官はこうも続けた。

「夏以降、良い状態から勝てない時期が続いて、そこは本当に悔しいと言いますか、J1の厳しさを見せられたり、自分たちが前に進めないもどかしさもありました。ただ、1年をトータルして考えると非常に良い時期もあったし、前半戦(周囲の予想は岡山が)最下位だと言われながら、良い順位で折り返せたのも悪くなかったと思います。そういう意味ではトータルして考えると、選手たちは素晴らしくよく戦った1年間だと思います。

 このチームがJ1に上がるために、予算規模やチームの置かれている状況のなかで、しっかり守れないと、J2を勝ち抜くことはできなかったですし、J1ではとてもでもないけど生き残っていけない。そのなかで全員で強く守備をして、そこからより高い位置で攻撃をスタートする。大きなコンセプトのなかでやってきました。もちろんできていない時もあるし、破られる時もあるけど、勇気を持ってやり続けるのはひとつ形になったんじゃないかなと。

(多くのタイトルを獲ってきた)フロンターレに今年2回負けなかったですし、自分たちも努力次第ではJ1で戦っていける。その想いを持ちながら試合をやってきたので、今日も勝ちたかったですが、しっかり1ポイントを取って帰れるのは良いことだと思います」
 かつて柏や浦和の攻撃を引っ張るなど経験豊富で、今季岡山に加入したMF江坂任も胸をなでおろした。

「ホットはします。それこそ(今季のJ1で)20番目だと予想され、実際に(昨季はJ2で)5位からのプレーオフを経ての昇格だったので、20番目のスタートのなかで、自分のなかでは最低限ですが目標を達成できた。ゲームキャプテンなどをやらせてもらっている身としてホッとしています」

 もっとも目指すのはさらなる高みだ。チームは川崎戦でも後方からのポゼッションにもチャレンジ。指揮官も明かす。

「できるだけリスクを背負わずに、勝点を積むということをメインに1年戦ってきました。ただ、それではこの先がないということを重々理解しているし、ある程度チームが進歩していかなくてはいけない部分はあるので、それは(川崎戦まで)2週間空いたので(取り組んできました)。元々J2時代に(後ろからのつなぎは)やっていないチームではないので、ただ現実を見据えて戦ってきたので、もっと進化していこうと話をして、細かい練習をしたわけではないですが、チャレンジをしていくことを確認して今日に臨みました」

 今季のリーグ戦も残すは2戦。岡山は次戦、浦和とのホーム最終戦を迎える。

「本当にチームを支えてくれる。"サポーター"という言い方よりも、いつも"我々"という言い方をしますが、仲間なので一緒に戦って勝ちたいですし、あとはチームを去る選手もいますし、できるだけ期待してくれるようなものを見せられるように全力で頑張りたいです」

 木山監督も言葉に力を込めた。

 資金や戦力が限られるなかでも創意工夫し、持てる力を常に全力で出そうとする姿はまさに爽快で、見ていて心を熱くされる。

 岡山のJ1の大冒険はこれからも続いていく。その道は街の熱気を含めて他のJリーグクラブにも大きな影響を与えるに違いない。かくいう弊誌サッカーダイジェストも春先に"岡山特集"を組ませてもらった際、現地の書店から多くの驚きの声を受けるほどの反響を受け、その注目度の高さを改めて肌で感じたことも記憶に新しい。

 岡山には熱がある。そして志がある。

 かつて川崎を率いた鬼木達監督らも語っていた。

「クラブにとって最も大事なのは志ですよ」と。

 だからこそ岡山の今後の戦いは大いに注目なのである。ここからの2試合、そしてJ1での2年目も旋風を巻き起こしてくれることを願いたい。
 
取材・文●本田健介(サッカーダイジェスト編集部)

【画像】小野伸二や中村憲剛らレジェンドたちが選定した「J歴代ベスト11」を一挙公開!

【画像】サポーターが創り出す圧巻の光景で選手を後押し!Jリーグコレオグラフィー特集!

次ページ【動画】川崎×岡山ハイライト

みんなにシェアする
Twitterで更新情報配信中

関連記事