5-3の勝利も川崎MF山本悠樹が浮かべた険しき表情。苛立ちを抱えたのはなぜか

2025年10月19日 本田健介(サッカーダイジェスト)

「個人としてはすごくフラストレーションのたまる試合」

清水戦もボランチとして攻守に存在感を示した山本。しかし、試合後には悔しさを口にした。(C)SOCCER DIGEST

[J1第34節]川崎 5-3 清水/10月18日/Uvanceとどろきスタジアム by Fujitsu

  打ち合いの末に5-3で勝利した試合後、チームの輪からそっと離れ、勝った試合とは思えない、悔しそうな表情を浮かべていた選手がいた。

 川崎のボランチとして、まさに攻守での心臓となっている山本悠樹である。

 清水戦、川崎は6日前に大逆転負けで敗退したルヴァンカップの準決勝・第2戦の柏戦の悔しさをぶつけるかのように、13分までに3ゴールを奪い、37分にも加点。清水の対応にも問題はあったにせよ、前半のうちに4点のリードを得る素晴らしいゲームを見せた。

 しかし、前半のうちに3-4-2-1から4バックに変えた清水に対し、前半のアディショナルタイムに1点を返されると、後半立ち上がりの1分にも失点。60分のGK山口瑠伊のPKセーブや、69分の河原創のゴールがなければどうなっていたか分からない流れで、結果的には後半アディショナルタイムに2度目のPKを今度は決められ、5-3で逃げ切る形となったのだ。

 得点は取れるが失点も重ねる。そして後半に押し込まれた展開。ボランチとしてチームをコントロールすべき山本は、自身にベクトルを向け忸怩たる想いがあったのだろう。試合後には胸の内を明かしてくれた。
 
「前半、最後の失点もそうですし、後半立ち上がりの失点もそうですし、まずやられちゃいけない時間帯に失点しているというところ。チームとしてもう一回やろうと言っている時間帯に取られるとか、それはチームとしての問題もそうですし、それを真ん中にいながら全体に伝えきれていない自分への苛立ちもあります。後半45分のなかで流れを引き戻すというか、コントロールするというところができてない自分への苛立ちもありますし、そんな感じですかね....。勝ちましたが、勝ちに値する後半ではなかったと思うので、ルヴァンもそういう展開でしたし、チームとして求めることもそうですが、自分もやれること、できることをもっと増やしていかないといけないと感じました」

 山本は個人としてもチームとしても「課題だらけ」とも振り返る。

 まず相手が形を変えてきた際の対応力。3-4-2-1でスタートした清水は前半の途中から4-2-3-1のような形に変化させ、後半頭からは選手交代を活かして4-4-2へと姿を変えていた。

「(直近の)レイソル戦も含めて、ゲームの途中で相手がやり方を変えた時に、個人で気付いて動きを変えられるか。僕自身もそうですし、気付いたら僕も伝える力がすごく必要だと思います。気付いて動きを変えられる選手の能力がすごくチームとして足りないかなと思いますし、監督もそうやって分かりやすく提示していただいたなかで、(相手が4-4-2になった後半)最初の立ち上がりで、ファーストが緩くなるとか、自分のマーカーに当たり前のように前を向かれるとか、ちょっとあの失点(後半立ち上がりの失点)で流れを持っていかれた感じはしたので、課題だらけです」
 
 また前半のうちに4点のリードを得ながらも、その後、失点を重ねてしまったことにも反省が残る。

「(60分の)PKを決められていたらどうなっていたか分からないくらいの流れだったと思います。そうなった時に中盤の選手がどう振る舞うか。そこが自分にすごく足りないと感じますし、攻守にチームとしてどういうやり方を選択し、前後に伝えていくかもっとやらないといけないです。

 やり方は浸透していると思いますが、新しい組み合わせや疲れなどで後手を踏むところがあった。そうなった時に最後のところをやらせないとか、PKを何本も取られているのはあそこまで押し込まれているのがいけないと思いますし、勝てましたが個人としてはすごくフラストレーションのたまる試合だったと思います」

 加えてルヴァンカップの準決勝の柏戦でCB佐々木旭が指摘していたように押し込まれた際にチームとして勇気を持ってボールをつなぎ、運ぶこともなかなか表現できなかった。

「(後半は)相手の圧力や、風の向きだったり押し込まれる要因はありましたが、それに対して(佐々木)旭も言っていましたが、勇気を持ってボールを運ぶとか、前を選択するとか、自分の判断のなかで前向きなプレーを選ぶとか、そこらへんのメンタリティはまだ足りないと思いますし、そういう状況を打破できる自分自身の力のなさも感じるので、向き合ってやっていきたいです」

 そして山本はこうも話した。

「今季を表わしている感じの試合だったと思います。4点を取って気持ち的にも余裕ができた時に、ちょっとずつサボるとか、後ろ、中盤の僕も含めてもう少し全体を操れたら良かったかなと思います。(前から)いけないのであれば、もう少しコンパクトにしなくちゃいけなかったし、そのへんの舵取り、バランスみたいなところは個人的に課題かなと思います。そこはより高いレベルに行くためには自分自身に求めないといけないですし、得点を取って緩むというのはどうしてもと言いますか、絶対になくさなくてはいけないところだと思います。そこが顕著に出たかなと思います」

 大逆転負けというショッキングなルヴァンカップの敗退から立ち上がり、勝利した面はチームとしてポジティブに考えられるのだろう。だが、山本のように課題をしっかり言語化し、自らにベクトルを向けられる選手は今の川崎に貴重だ。

 勝って兜の緒を締めよとはよく言うが、なかなか課題を改善できていない現状で、怒りに似た感情を抱き、その想いをチームに還元できるような山本の存在はかなり大きい。

 清水戦はそれを感じるゲームでもあった。 

取材・文●本田健介(サッカーダイジェスト編集部)

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