決断を急げ!ファウルか? 合図は? 船越ジャパンが初体験の新ビデオ判定でチャレンジ成功。先制PK獲得の舞台裏【現地発】

2025年10月01日 松尾祐希

テクニカルスタッフを中心に何度もシミュレーション

FVSでPKを獲得。キャプテンの市原がしっかり決めた。(C)Getty Images

[U-20W杯]日本 2-0 チリ/9月30日/エスタディオ・ナシオナル・フリオ・マルティネス・プラダノス

 チリのA代表がワールドカップ予選でも使う"エスタディオ・ナシオナル・フリオ・マルティネス・プラダノス"に集まった観客は、4万2,517人。ほとんどのサポーターが"ラ・ロハ"(チリ代表の愛称)を応援する民だった。

 試合開始30分前までは6割くらいしか埋まっていなかったスタンドも、キックオフを迎えた頃には、日本サポーターの一角以外は真っ赤に染まる。まさに圧倒的アウェーの雰囲気でゲームは幕を開けた。

 チリで開催中のU-20ワールドカップで、船越優蔵監督が率いる若き日本代表は、グループステージ第2節でホスト国のチリと相まみえた。

「声もなかなか聞こえなかったりしたんですけど、チームとしてのまとまりは90分間あった」とはMF佐藤龍之介(岡山)の言葉。0-0で迎えた55分に齋藤俊輔(水戸)が獲得したPKをCB市原吏音(大宮)が決め、均衡を破る。その後も優位に試合を進め、82分には途中出場のMF横山夢樹(今治)が強烈なミドルシュートでトドメを刺した。

 終わってみれば2-0の完勝。初戦のエジプト戦にも2-0で勝利している船越ジャパンは、連勝を達成して勝点6。グループ内の最終順位はまだ確定していないが、決勝トーナメント進出条件の各組3位の上位4か国以内に入ることが決まり、最終節を待たずしてグループステージ突破となった。
 
 異様な雰囲気を跳ねのけ、勝利を手繰り寄せた船越ジャパン。チリ戦を振り返るうえで、勝負を分けたひとつが、「フットボール・ビデオ・サポート(FVS)」だ。

 VAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)方式に代わって試験導入されているFVSは、「得点、一発退場、PK、人間違いのカード提示」などに関する事案を対象に、ビデオ判定を求めるもの。VARのように常時映像をチェックする審判員は設けられていない。レビューは原則、チームからのリクエストによって行なわれ、選手が監督らに向けてリクエストを助言することも可能だ。リクエストの上限は1試合につき2回。レビューで判定が変わった場合のみ回数は減らない。

 チームとして一度も体験していない施策で、U-17女子ワールドカップで導入された経緯に基づき、同大会で主審を務めた小泉朝香審判員からレクチャーを受けた。ただ、それだけで流れを掴むのは難しい。テクニカルスタッフを中心に何度もシミュレーションをし、今大会に臨んだ。

 迎えたエジプトとの初戦では使用する場面がなかったが、チリ戦で市原が決めたPKは、FVSによるリクエストで得たものだ。その裏には各所とのスムーズな連係があった。

 ペナルティエリア内で齋藤が倒されたが、主審の判定はノーファウル。一度、プレーが止まるまでに申告しなければならず、決断を躊躇している暇はない。

 そのなかでまず、齋藤は足がかかった感触があり、ベンチに向けてFVSを求めるサインを出す。合図を確認する前にベンチでも動き、スタンド上部で試合を見ていた越智滋之氏を中心とするテクニカルスタッフが無線でベンチにファウルの可能性を進言。船越監督が齋藤の合図も含めたうえでジャッジし、FVSの施行を求めた。

「テクニカルスタッフも良い仕事をしてくれた。自信を持ってできたので、まったく何も心配していなかった」とは指揮官の言葉。選手やスタッフが一体となって掴み取った先制点だった。

 サッカーの競技規則などを含めたルールを細部まで把握しなければならず、FVSを使うにあたってはスタッフの理解度も求められる。そうした細やかな取り組みが、チリ戦の勝利に結び付いたのだった。

取材・文●松尾祐希(サッカーライター)

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