W杯でブラジル人が米国に行けない?セレソン応援に“入国制限”の危機【現地発】

2025年08月18日 沢田啓明

国際問題化する恐れも

ブラジル人のアメリカ入国が制限されれば、こんな光景も少なくなるのか。(C)Getty Images

 7月末、CNNブラジルが報じたニュースが同国で大きな波紋を広げている。内容は「来年のW杯で、ブラジル人がアメリカ国内でセレソンを応援できなくなる可能性がある」というものだった。

 報道によれば、アメリカのトランプ大統領はブラジルを敵視しており、8月6日から輸出品に50%という異例の高関税を課すだけでなく、ブラジル人への観光ビザ発給を停止、あるいは取得を困難にする方針を検討しているという。ブラジルは米国にとって貿易黒字国であり、本来なら高関税を設定する合理的な理由はない。

 背景には、トランプと親交が深いブラジル右派のボルソナロ前大統領の問題がある。彼は2022年末の大統領選で敗北した際に結果を覆そうとしてクーデターを画策したとして起訴され、現在は自宅軟禁下に置かれている。来年の大統領選での再選を目指しているが、2030年まで立候補を禁じられている状況だ。トランプはこの処遇を強く批判し、起訴の取り消しと無罪を要求。これに対してブラジルの政財界は「明らかな内政干渉だ」と反発している。

 高関税自体は現時点で国民生活に大きな影響を及ぼしていない。だが、来年の北米共催W杯でアメリカ入国が制限されれば話は別だ。多額の費用をかけて航空券や宿泊、試合チケットを確保していたファンにとっては深刻な問題であり、国際問題化する恐れもある。さらにはブラジル国内の世論が「ボルソナロを無罪放免せよ」という方向に傾く可能性も指摘されている。
 
 実際、6~7月にアメリカで開催されたクラブW杯では、出場したブラジル4クラブを応援するため約4万人のファンが現地入り。現地在住のブラジル人サポーター数万人と合流し、スタンドを熱狂で染めた。経済的に観戦できる層は中流以上に限られるとはいえ、W杯は国民的行事であり、選手たちにとってもサポーターの存在は大きな力となる。

 来年のW杯では、およそ10万人規模のブラジル人がアメリカを訪れると予測されている。もし彼らの渡航が大幅に制限されれば、セレソンへの心理的ダメージも計り知れない。ブラジルサッカー連盟は「この件について注視している」とのコメントを発表している。

文●沢田啓明
 
【著者プロフィール】
1986年にブラジル・サンパウロへ移り住み、以後、ブラジルと南米のフットボールを追い続けている。日本のフットボール専門誌、スポーツ紙、一般紙、ウェブサイトなどに寄稿しており、著書に『マラカナンの悲劇』、『情熱のブラジルサッカー』などがある。1955年、山口県出身。 

 
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