26年W杯の現地観戦は要注意!水1本10ドルでホテル代は4倍。とにかくカネが消えていく――“透明バッグ”も必携【クラブW杯現地ルポ】

2025年08月13日 リカルド・セティオン

ビールは12~18ドルでサンドイッチは20ドル

クラブW杯はとにかくカネがかかったという。来年のW杯もサポーターはかなりの出費を覚悟しなければならないだろう。(C)Getty Images

 6~7月に開催されたクラブワールドカップ(以下クラブW杯)を現地で取材した。あらためて総括する必要性があると思ったのは、来年に3か国共催で行なわれる前代未聞のW杯のリハーサルの意味もあったからだ。

 率直に言って、問題だらけの大会だった。暑さ、ピッチコンディションの悪さ、強引にアメリカナイズされたイベント……今回起きたことは、来年にも起こりうる――いや、より重大な問題になりうる危険がある。参加チーム数、訪れるサポーターの人数、開催国の数は、今回の比ではない。

 以下、私が驚いた出来事や取り組みを、一つひとつ見ていこう。W杯の現地観戦を計画している方々は、ぜひ参考にしていただきたい。

 まず触れたいのが、「透明バッグ問題」だ。アメリカではスタジアムに入る際、中身がすべて見える透明の透明バッグの使用が多くの州で義務づけられている。スポーツイベントのみならず音楽コンサートにおいても、普通のバッグを持ち込むことが禁止されている。

 アメリカにおけるこうしたセキュリティーの強化は2001年に起きた「9.11テロ事件」から始まり、その後、13年のボストンマラソン爆破事件などにより、さらに厳格になった。透明バッグの義務化は、13年にNFLが初めて導入し、それ以降、すべてのスポーツ観戦において取り入れられるようになり、今やアメリカでは標準的な規則となっている。

 スタジアムに持ち込むすべてのバッグは完全に透明でなければならず、サイズも最大30×15×30cmに規定されている。リュックサックは禁止。女性用ポーチも、ウエストポーチも禁止。このルールはクラブW杯観戦に訪れた国外のサポーターを驚かせ、メットライフ・スタジアム(ニューヨーク)、メルセデス・ベンツ・スタジアム(アトランタ)、ハードロック・スタジアム(マイアミ)など、スタジアム周辺では混乱と怒りの光景が広がった。

 観客が持ち物で足止めされると、まるで魔法のように、どこからともなく透明バッグを売り歩く者が現われる。そのほとんどは許可のない移民であり、エントランス付近で木製の棒に透明バッグを吊るして売り歩いていた。価格は15~40ドル。もちろん、レシートも保証もない。しかし、需要は極めて高かった。なぜなら彼らから買わなければスタジアムに入れないからだ。カリフォルニアでの調査によると、スタジアム周辺でバッグを購入したファンは34万人を超えたという。

 高額なチケットを購入したにもかかわらず、スタジアムの入り口で足止めされ、結局試合を見ることができなかった家族がいた。その理由は、娘のブランド物のバッグだった。彼女はそれを捨てることはできなかったのだ。

「高級バージョン」の透明も登場した。メイシーズやノードストロムのような百貨店では、ブランド物の透明バッグが販売されていた。金色のジッパー、合成皮革の持ち手、エレガントなブランドロゴが付いて、価格は79ドルから始まり、なかには200ドルを超えるバックも出現した。屋台物にしてもブランド物にしても、すべてが強気な価格設定だった。

 なぜなら、試合を観戦するためには透明バッグを買うしかないからだ。もちろん、安全性を担保するためのルールだが、現実には消費を促進することとなった。
 

今回のクラブW杯は、とにかく金がかかった。

 グループステージの試合のチケットは80~150ドルで、MLSの試合の平均価格30ドルをはるかに上回っていた。準々決勝と準決勝のチケットは200~300ドル、決勝は400~1850ドルと、とんでもない値段だった。4歳の子どもも大人と同じ金額だ。

 観戦者を苦しめるのはチケット代だけではない。38度の暑さの中、さらなる出費が待っていた。ミネラルウォーターは6ドル、ビールは12~18ドル。サンドイッチはほぼすべてのスタジアムで20ドルを超えていた。また、スタジアム周辺の屋台ではミネラルウォーターがなんと10ドル。それでも喉が渇いた人々は買うしかない。

 駐車場は50ドルが平均で、なかには70ドルや80ドルの場所もあった。それを避けようと公共交通機関を使っても、電車もやはり高価。ニューヨークからニュージャージーまでのメットライフ・スタジアム(準決勝と決勝)への乗車賃は11ドルだったし、なにより混雑していた。例えば多くの試合が開催されたアトランタの地下鉄は、乗客数記録を更新した。

 Uberタクシーの料金も通常の5倍に跳ね上がり、それでも試合日は需要が230%増加、待ち時間は通常5~10分のところが22分を超え、白タクも横行した。ロサンゼルス市当局のデータによると、クラブW杯開催期間に利用された白タクはのべ5000台を超えたという。

 ホテルも客室稼働率が94%に達し、予約を取るのは困難。ここぞとばかりに値上げを敢行するホテルもあり、なかには料金を400%上げたホテルもあった。ニュージャージーの3つ星ホテルの一泊料金は通常75~100ドルだが、準決勝の日はそれが200ドル以上になった。また、3月に120ドルだった通常の部屋が、7月には480ドルに設定されていた。

 飛行機もつねに満席で値段も高かった。7月はアメリカの学生の夏休みシーズンでもある。米国旅行協会のデータによると、開催地となった州と州を移動したファンは120万人超。国内線の料金は、通常100ドルの路線が350ドルに跳ね上がった。

 これらはすべて、32チームが参加したクラブW杯の話だ。来年のW杯は48か国が参加する。しかもW杯のサポーターは、国単位だ。熱いサポーターが各国からやってくる。規模がまるで違う。

 チケットもホテルもさらに高騰し、移動は混雑し、物流上の問題も大幅に増加することは容易に想像できる。すでに高価だったものはさらに高価になり、透明バッグのような不便なルールに、メキシコやカナダでも直面するはずだ。入念な下調べが、必須である。


取材・文●リカルド・セティオン
翻訳●利根川晶子

【著者プロフィール】
リカルド・セティオン(Ricardo SETYON)/1963年8月29日生まれ、ブラジル・サンパウロ出身。ジャーナリストとし中東戦争やユーゴスラビア紛争などを現地取材した後、社会学としてサッカーを研究。スポーツジャーナリストに転身する。8か国語を操る語学力を駆使し、世界中を飛び回って現場を取材。多数のメディアで活躍する。FIFAの広報担当なども務め、ジーコやカフー、ドゥンガなどとの親交も厚い。現在はスポーツ運営学、心理学の教授として大学で教鞭も執っている。

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