亡き父に伝えた殊勲弾。前橋育英の14番と腕章を託された竹ノ谷優駕スベディが燃やす情熱「何より『勝ちたい』気持ちが強い」

2025年06月19日 安藤隆人

鬼気迫るプレーが57分に結実する

全国の舞台に導くゴール。両手の人差し指を天に突き刺し、父に伝えた。写真:安藤隆人

 前橋育英の14番は毎年、チームを象徴する存在が背負う。同時にその人物がキャプテンを任されるケースも多く、これまで鈴木徳真(ガンバ大阪)、田部井涼(ファジアーノ岡山)、徳永涼(筑波大)、昨年は石井陽(明治大)がこの2つの重責を担った。

 今年も14番がキャプテンとなった。昨年はサイドバックとボランチの二刀流でプレミアリーグEASTで安定したプレーを見せ、選手権でも両方のポジションをハイレベルにこなして優勝に貢献したMF竹ノ谷優駕スベディは、今年はボランチに固定され、心身ともにチームの要となった。

「発表前から僕が両方やることになるのだろうなと覚悟はできていましたし、涼さん、陽さんからも『お前が引っ張っていくんだ』と言われていた。いざ、両方を背負ってみると想像以上に重いというか、チームの成績自体も、のしかかってくる。悩むことは正直多いですが、これほどやりがいのあることはないなと感じています」

 プレミアEASTでは4位と上位をキープした状態で迎えたインターハイ予選は、苦戦の連続だった。準決勝の前橋商業戦では後半アディショナルタイムまで1点のリードを許していた。

「あの時、『敗退』の2文字がよぎるなかで、『諦めるな。最後までやり切れ!』と自分に言い聞かせながらプレーしました」

 その願いが通じたのか、ボランチでコンビを組むMF柴野快仁が土壇場でPKを獲得し、自ら決めて追いついた。そしてPK戦を制して決勝進出。「県予選はリーグとはまったく違うプレッシャーがあると改めて感じた。決勝は、周りに助けてもらった分、絶対に自分がやらないといけないと思った」と強い決意を持って、ライバルの桐生第一との決勝戦に臨んだ。

 試合当日の前橋は雨予想だったが、晴れ間が広がり、強烈な猛暑となった。ピッチに立つ選手たちが気候に苦しむなか、竹ノ谷は攻守においてハードワークを厭わなかった。

 守備面では予測と鋭い出足でセカンドボールを回収し、1対1では負けなかった。攻撃面では負傷を抱えていた柴野の分も積極的に前に出て、2トップに絡んだり、ラインブレイクのスプリントを仕掛けたりするなど、アクセントを加えた。
 
 まさに鬼気迫るプレーが57分に結実する。右CKを得ると、「最初はニアに飛び込んで決めようと思った」が、ボールがファーに行くと、すぐに折り返しやセカンドボールに反応できるポジションと身体の向きを作った。するとファーで柴野がヘッドで合わせると、自分の足もとにボールが飛んできた。

「相手のゴールキーパーやディフェンダーが後ろから来ているのが分かったので、トラップしていたら奪われると思った」と、とっさに右足の足裏でボールをゴールに向かってすらすと、そのままゴールに吸い込まれていった。

 歓喜の雄叫びと共に左コーナーフラッグに走っていくと、ピッチからもベンチからも仲間が押し寄せて歓喜の輪ができた。その輪が解けると、彼は両手の人差し指を天に突き刺した。

「お父さんが僕にチャンスを与えてくれたんだと思いました。この日(6月15日)は『父の日』でもあったので、ゴールや勝利を決めたら感謝を伝えようと思っていたんです」

 昨年の選手権予選期間中に父が他界。この時から竹ノ谷は「僕がサッカーをやれるのは当たり前じゃないし、感謝をしないといけない。それに父は常に空から僕のプレーを見てくれていると思うので、中途半端なことはできないと思っています」と、自分がサッカーを続ける意味を心に刻んでいた。

「選手権予選の準決勝でゴールすることができて、その時に天に指を差して感謝の気持ちを届けたのですが、それも桐生第一戦でした。それ以来、公式戦ではゴールを奪えていなかったので、今日、桐生第一を相手に今度は決勝ゴールが生まれて、『巡り合わせって本当にあるんだな』と感じました。父の日だったことと、キャプテンとしての責務を少しでも果たせたという気持ちが込み上げてきて、本当に最高の瞬間でした」

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