名将ペップでも排除できなかった“選手の緩み” 苦戦は驚きではない【コラム】

2025年03月31日 小宮良之

「贅肉がたっぷりついたのかもしれない」

グアルディオラ監督が率いるシティが今季は不振に喘いでいる。(C)Getty Images

 プレミアリーグ王者、マンチェスター・シティが不調に喘いでいる。

 その現状を、ジョゼップ・グアルディオラ監督がどのように捉えているのか、本当のところはなかなかわからない。司令塔であるMFロドリのひざ前十字靭帯断裂による長期離脱が落とした影は深いだろうし、他にもバックラインにけが人が多く出たのは事実で…。

 シティは、グアルディオラ監督が様々な伏線を(トレーニングで)張って、それに選手たちが答える図式が強さの本質だった。監督の慧眼で選手を覚醒させてきた。その回路が少しでも滞れば…苦戦は驚きではないだろう。

「ダイヤモンドの原石だ」

 かつてFCバルセロナで監督に就任した時、グアルディオラはメッシについてそう語り、「取扱注意」である縛りを自らにも課していた。

「メッシは自分に対する要求が強い選手で、それをやってのけるだけの力を持っている。しかし同時に、周りの選手にも高い次元が高いプレーを求めるところもあるから、神と悪魔と同居しているとも言える。そうした才能は"制御できるものではない"と考えたこともある。だが一方で、この若者は世界フットボール史上最高の選手になるとも確信していた」

 グアルディオラは、原石をどうやって最高の輝きに仕上げるか、に最大限の注意を払ってきた。甘やかしてはいけないが、自由を奪ってもいけない。メッシをどこにでもいるアタッカーにしないため、彼は少しずつポジションを動かし、求めるプレーを増やし、精度を上げさせた。そして、シーズン50点という快挙もやってのけさせる唯一無二の選手にしたのである。

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 逆説すれば、どんなスーパースターも凡庸な選手になりかねない、という理屈だろう。トップレベルになればなるほど選手はデリケートで、輝きを失う。その小さなヒビから、チーム全体に崩壊が起きるのだ。

 バルサ時代もグアルディオラは最後のシーズン、チームは失速したままで終わった。

「贅肉がたっぷりついたのかもしれない」

 グアルディオラは当時、そう白状していた。タイトルや成功、もっと言えば圧倒的な自分たち主導のゲームに、チーム全体が満腹になってしまい、平たく言えば、剥き出しの野心で何かをつかみ取るような飢えがなくなった。勝利に慢心した、とは少し違う。ただ、何年も勝ち続ければ、陶酔も平凡に感じられてしまうものだ。

 人間の精神メカニズムは物事に慣れるように作られており、その意味でバルサの選手たちは勝利に飽きていた。選手の中の緩み。言わば、油断だ。

 この回路をすべて排除できる監督は、この世に存在しない。

文●小宮良之

【著者プロフィール】
こみや・よしゆき/1972年、横浜市生まれ。大学在学中にスペインのサラマンカ大に留学。2001年にバルセロナへ渡りジャーナリストに。選手のみならず、サッカーに全てを注ぐ男の生き様を数多く描写する。『選ばれし者への挑戦状 誇り高きフットボール奇論』、『FUTBOL TEATRO ラ・リーガ劇場』(いずれも東邦出版)など多数の書籍を出版。2018年3月に『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューを果たし、2020年12月には新作『氷上のフェニックス』が上梓された。

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