「そうじゃなかったら移籍してるよ」 満身創痍のなかで戦う大久保嘉人が持ち続ける想いとは――

2016年06月26日 江藤高志

開幕前から苦しめられてきた足の痛み。それを感じさせない凄み。

最終節こそゴールは生まれなかったものの、負傷をおしてピッチに立ち続けた第1ステージも存在感を十分に見せつけた。写真:小倉直樹(サッカーダイジェスト写真部)

 第1ステージの17試合で、得点ランキング2位の11得点をマークしてチームを牽引してきた大久保嘉人だが、今シーズンは開幕前から難しい戦いを強いられていた。

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 キャンプ中から足に痛みが発生。チームメイトで同じメーカーのスパイクを履く橋本晃司から少し大きめのサイズのものを借りて練習していたが、その結果わずかに軸足がズレてしまい、身体のバランスが悪くなる。足の痛みはさらに蓄積し、合宿中から思うようにプレーできない状態が続いていた。
 
 シーズンが始まっても痛みは完全には引かず、万全ではなかった。ただ、大久保の凄さは傍から見ていても、そうした問題を抱えた選手とは思えないプレーができてしまうところだろう。
 
 今季の初ゴールは2節の湘南戦でマークした。中山雅史さんの157得点に並ぶと、続く3節の名古屋戦でシーズン2点目を決め、Jリーグ通算得点記録を158点として佐藤寿人に並ぶ。単独首位となる159点目は6節まで待つ必要があったが、大久保らしい劇的なゴールとなる。
 
 堅守の鳥栖に苦しめられ、0-0で推移したこの試合で大久保は決定機を外し続ける。気持ちが折れてもおかしくないなか、「(外し続けたことを)なんて謝ろうかなと(笑)」も思っていたという試合終了間際。小林悠からのクロスを頭で合わせ、チームに勝点3をもたらした。
 
 試合後の大久保は「FWってそういうもので、地獄に落ちるか天国に行くのか紙一重のところがある」と振り返るが、地獄に落ちる可能性もあったなかで、折れないメンタルで勝負強く決勝弾を決めたのは流石だった。この大久保の決勝ゴールに象徴されるように、今季の川崎は負けを引き分けに。引き分けを勝ちに持ち込む勝負強さを見せてきた。
 
 しかし一方で大久保は太ももの痛みを抱えつつ、5月中旬ごろには左足の裏を傷めてしまう。5月20日には1時間以上注射の怖さと格闘しつつ炎症を抑える薬を打ち、患部を落ち着かせたという。まさに満身創痍のなかでのシーズンとなったが、それでもコンスタントにゴールを決めてチームに勝点をもたらし、その絶対的な存在感から若手を鼓舞してきた。
 
 シーズン前。大久保は「このクラブは優勝できると思っている。そうじゃなかったら、移籍してるよ」と話していた。と同時に「毎年、メンツ的にはいいからね。だから、みんなで頑張ってやってほしいよね」と話し、チーム一丸となって目標に向けて奮起することを望んでいた。
 
 その大久保の思いはわずかに届かなかった。ただ、痛みがほぼなくなった状態で臨む第2ステージは、大久保にとってもゴールラッシュを予感させるものになる。すぐに始まる第2ステージでの巻き返しとともに、年間勝点1位。そしてチャンピオンシップの大一番に向けて戦い続けてほしいところだ。
 
取材・文:江藤高志
 
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