ベリンガムになる必要はない。爆発的な強さや高さがなくても世界で通用する“日本人の武器”【コラム】

2025年03月01日 小宮良之

オールマイティな選手は生まれにくい現実

テクニックだけでなくクレバーさも評価されている久保。(C)Getty Images

 いつか日本サッカーでも、レアル・マドリーのイングランド代表MFジュード・ベリンガムのような選手が生み出されるかもしれない。大きな体躯で、長い手足を使い、パワーも、スピードにも優れたオールラウンダー。万能感が漂う、ダイナミックな選手というのか。

 しかし現時点では大きく、速く、強く、うまいという選手を望むのは難しいだろう。日本人は大柄だと、どうしても素早さが失われるし、速いとうまさが足りず、うまいと強さに欠ける。体格的なハンデを背負い、野球などに競技人材が流れるだけに、オールマイティな選手は生まれにくい現実があるのだ(もし、大谷翔平や八村塁や石川祐希がサッカー選手だったら、と考えると…)

 もっとも、サッカー選手としてサッカーを突き詰めることで、いくらでもワールドクラスの選手は出てくる。久保建英、三笘薫、守田英正、遠藤航などは身長170センチ台だが、素早く俊敏で、テクニックレベルが高く、戦術眼にも優れ、ピッチの上で自分の技術を使う術を知っている。

〈クレバーさ〉

 そう括ってしまうのは雑だが、どこにいるべきで、いてはいけなくて、タイミングを失わず、止まって待つこともできる。そうした戦術的な知性を持って、賢く技術を出せる選手は、一流の域に入ってチームに勝利をもたらす。

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 世界でも、フロリアン・ヴィルツ(レバークーゼン)、ダニ・オルモ(バルサ)、フィル・フォーデン(マンチェスター・シティ)など170センチ台で大柄ではないが、面白いように攻撃を作り出せる。

 彼らは巧みにライン間に入ってボールを受けると、いくつもの選択肢からゴールに迫る。ライン間のスペースは限られ、少しでもコントロールがずれるとすり潰されるし、判断が鈍ってもトライは成功しない。しかしライン間でボールを受けて前を向けたら、勝ったのも同然。バックラインは障害物がない状態で攻撃を受けることを意味し、守り切れないのだ。

 戦術的な動きと速やかな決断、そして高いスキルが融合した場合、無敵の存在となる。爆発的な強さ、高さ、速さは要らない。ベリンガムになる必要はないのだ。

 日本人サッカー選手が欧州で定着しつつある理由は、先人たちが道を切り拓いてきたこともあるが、やはり戦術的、技術的な進化を遂げてきたからだろう。それはライン間に限らず、あらゆる場所、ポジションで応用されている。身につけたクレバーさが、欧州の競争力が高い環境で晒されることで引き上げられるのだ。

 無理にフィジカルプレーヤーを育てなくていい。「サッカーがうまい」と言える選手を重用すべきだろう。サッカーのうまい選手たちの中から、戦闘力の高い選手も生み出す。その順序でしかるべきだ。

文●小宮良之

【著者プロフィール】
こみや・よしゆき/1972年、横浜市生まれ。大学在学中にスペインのサラマンカ大に留学。2001年にバルセロナへ渡りジャーナリストに。選手のみならず、サッカーに全てを注ぐ男の生き様を数多く描写する。『選ばれし者への挑戦状 誇り高きフットボール奇論』、『FUTBOL TEATRO ラ・リーガ劇場』(いずれも東邦出版)など多数の書籍を出版。2018年3月に『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューを果たし、2020年12月には新作『氷上のフェニックス』が上梓された。

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