スペインの国家的プロジェクトに疑問を投げかけたヴィニシウス。なぜマドリーは彼の “挑発的な行動”を是正しないのか【現地発コラム】

2024年09月26日 エル・パイス紙

「人種差別的な侮辱は耐え難いものであることを気づかせてくれた」

ヴィニシウスの発音が物議を醸した。(C)Getty Images

 人種差別的な言葉を浴びせた加害者が陣取っていたメスタージャの観客席に人差し指を向けたヴィニシウス・ジュニオールの行動は我々スペイン人にとって大きな意味があった。

 人種差別の汚名が、バレンシアの街とメスタージャに着せられたことは当事者にとっては不本意だっただろうが、どこかで起こらなければならなかった。メスタージャやバレンシアの評判がどうなったかということ以前に、多くのスタジアムで、差別的な行為が繰り返されていたにもかかわらず、不問に付され続けてきたことが異常だった。

 なぜなら我々スペインは人種差別主義者ではないかもしれないが、人種差別主義者を容認してきたことは事実だからだ。唯一、ハビエル・テバス会長だけがラ・リーガの評判に気を配るという称賛に値する熱意に駆られて、ヴィニシウスの件を気にかけていたが、所属先のレアル・マドリーですら見て見ぬふりをしていた。ヴィニシウスを守りたいという気持ちよりも、テバスに対する反感がフロレンティーノ・ペレス会長の心に重くのしかかっていた。

 こうしてヴィニシウスは、我々スペイン人の無関心の壁を打ち砕いた。スペインサッカー連盟(RFEF)による制裁が発表され、ペレス会長はネクタイを締めたお偉方が独占するボックス席にヴィニシウスを座らせ、皮肉なコントラストを演出した。
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 この国は、暗黙的な了解という形ではあるが、人種差別に対して異なるスタンスを取り始めた。まだ見せかけかもしれないが、少なくとも最初の一歩を踏み出した。スペイン人全員がヴィニシウスの人差し指を通じて差されていると認識し、社会全体で反応した。

 だから我々はヴィニシウスに感謝しなければならない。彼の態度が苛立ちを引き起こすか引き起こさないかにかかわらず、人種差別的な侮辱は耐え難いものであることを気づかせてくれた。

 つまるところ、本来ならヴィニシウスは尊敬を集めて然るべき人物であるはずだ。しかし実際は異なる。彼の問題は、言動を抑制することができなくなってしまっていることにあるように思う。米CNNテレビのインタビューは概ね適切な言葉を選んで答えている。

 しかしその中で、インパクトのある見出しの対象になるナンセンスなことを口にした。スペインが正しい方向に進化しないのであれば、2030年W杯を辞退させるべきだという件の言葉だ。彼を不作法な挑発者と蔑む過激な反マドリディズムを調子づかせ、擁護者たちを落胆させるには十分すぎる威力を持っていた。

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