「稼げる、収益を考えられる、クラブに還元できる」“小笠原満男・命”だった少女が欧州クラブでバリバリ活躍する敏腕広報に成長を遂げるまで【現地発】

2024年08月30日 中田徹

「あ、私、スペインに行かなくっちゃ。そう思いました」

欧州サッカーシーンの最前線で広報を務める金子さん。ずっと温めてきた夢を掴んだ。写真:中田徹

 欧州を拠点に、サッカーにまつわる広報業務に携わる日本人がいる。KMSKデインズ(ベルギー2部リーグ)とトレモリーノスCF(スペイン4部リーグ)を所有するサッカー事業会社の広報を主に担う、オランダ在住の金子(石田)侑(34歳)がその人だ。
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 2002年3月、家族とテレビを見ながら日本代表を応援しているときだった。当時、小学6年生の金子は小笠原満男に一目惚れした。

「私はこの人の人生についていくんだ。私の人生、この人だ」

 必然的に鹿島アントラーズのサポーターになり、やがてコアなサッカーファンになった。

「将来はサッカーの世界で働く。私はサッカーをプレーしたことがないけれど、記事なら自分でも書けるかもしれない」

 早稲田大学文化構想学部に進学し、体育会の活躍を報道する「早稲田スポーツ新聞会」のア式蹴球部担当記者として健筆をふるいつつ、Jリーグの広報部でインターン&アルバイトをし、鹿島の応援活動にも精を出した。

 1年生のとき、日本代表のマッチメイクなどで知られた平田竹男・早稲田大学スポーツ科学学術院教授の「スポーツビジネス最前線」という授業を受け、さらに4年間、平田教授のゼミに入ってスポーツビジネスの勉強をした。

「私は学部が違うから、平田先生のゼミに出ても単位にならない。それでも私は平田先生から学びたかった」
 
 どう見ても金子の大学生活4年間は、スポーツメディア業界就職へのレールが敷かれているようだった。しかし彼女は夢見た世界への挑戦を自らドロップ・アウトしてしまった。

「大学3年、4年になるとみんな就職活動をするじゃないですか。だけど、私はその雰囲気に嫌になっちゃった」

 3年の冬、トヨタカップで来日したバルセロナの試合のチケットを知り合いからもらった。

「私はJリーグ、大学サッカー、ユースサッカー、高校サッカーを見てたから、海外のサッカーに興味がなかった。しかし、バルセロナのゴール裏に行ったら、めちゃくちゃ楽しかった。『あ、私、スペインに行かなくっちゃ』。そう思いました」
 
 カナダの高校に3年間留学していた金子は、その学校のプログラムで2週間ほど南スペインの小さな村で過ごしたことがあった。ホームステイ先の老婆に心配させまいと夜8時に帰宅すると「あなた、友だちいないの? これからが遊びに出かける時間よ」と怒られた。

「南スペインの『人に触れ合う』という文化が自分にすごく合っていた。しかもそこらへんでみんなボールを蹴ってるし、サッカーを見れるし、天国でした」

 バルセロナの陽気なゴール裏に混じったことで、金子は多感な17歳の経験をシンクロさせた。

「奨学金をもらいながらスペインに行ける大学はないだろうか」と探したところ、スペインとイタリアで1年ずつ勉強できる奨学金制度を見つけた。

「英語で勉強でき、奨学金をもらえる大学を探すとき、学びたいことより国を選んだ結果、森林学の勉強をすることになりました。こうして私は卒業後、日本に戻って大手製紙会社に就職したんです」

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