スペイン代表が披露した“新しいティキタカ”。実は否定的な意見も多かった黄金時代の戦術とは異なり...【現地発コラム】

2024年06月30日 エル・パイス紙

「パイソン付きのティキタカ」という新ネーミング

新たなスタイルを確立したスペインのキーマンが16歳のヤマル(左)だ。(C)Getty Images

 イタリア戦の翌朝、スペイン代表のパフォーマンスを称賛する多くのメッセージや電話を受け取った。その中で最も気に入ったのが、アレックス・グリヘルモによる「パイソン付きのティキタカ」という新ネーミングだった。

 パイソンとはニシキヘビの一種。獰猛さを備えたティキタカといった意味だ。スペインがEUROで展開している新しいサッカーを巡る議論が白熱する中、思いついたというが、さすが言語学者と言える洒落たネーミングだ。

 私はすぐに彼に電話し、そのアイデアを拝借させてもらっていいか尋ねた。「引用する必要はない」と承諾を得たが、そうはいかない。

 ティキタカは2008年から2012年にかけて、スペインにEURO2008、2010年ワールドカップ、EURO2012のメジャー大会3連覇をもたらした。それは、センセーショナルなMFが揃っていた時代にルイス・アラゴネス監督が見出したものだった。

 就任当初、戦術の軸に据えていたのはウイングの突破力だった。しかし、ビセンテ・ロドリゲスの負傷、ホアキン・サンチェスとホセ・アントニオ・レジェスのサッカーに対する取り組みのゆるさ感といった誤算が重なり、思い通りに進まなかった。
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 その中で編み出したのがボールポゼッションをベースとしたティキタカだった。ジョゼップ・グアルディオラがバルセロナで成功を収めることができたのも、シャビとアンドレス・イニエスタが主軸として君臨するラ・ロハのサッカーをそのまま自チームにも取り入れたからだ。

 しかしながら、影のようにボールを追い回す相手チームをしまいには眠らせるティキタカは、その一方でダイナミズムに欠け、シュート数が少ないと非難の対象にもなった。とりわけチームの中核をバルサの選手が担い、おまけにその恩恵を受けて黄金時代を謳歌したことが面白くないレアル・マドリー界隈では否定的な見方が多かった。

 いずれにせよ、マドリディスタは伝統的に、ゆったりとしたボール回しよりも、エネルギッシュでテンポの速いサッカーを好む。サンティアゴ・ベルナベウでは、バックパスのたびに口笛が鳴り響くのはそのためだ。

 もっともティキタカに否定的だったのはマドリディスモだけではなかった。ティキタカは、スペインサッカーに栄光をもたらしたことで受け入れられたが、完全に理解されたわけではなかった。不思議なことではない。西部劇映画のほうがアート映画より面白いと言われるのと同じ理屈だ。結局、ノスタルジーを呼び起こしながら、ティキタカ(私は信者の1人だった)の全盛期は過ぎた。
 

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