初出場フィリピンの健闘ぶり。開催国から勝利をもぎとり、熱狂的なファンは最後までチームを支え続ける【女子W杯】

2023年07月31日 西森彰

A組に混沌とした状況を生み出す

W杯初出場のフィリピン。GS敗退となったが、力の限りを尽くした。(C)Getty Images

 グループステージ(GS)2連勝でノックアウトステージへ勝ち上がった、なでしこジャパン。ベスト16の相手は、日本がGS最終戦のスペインに勝って1位抜けした場合は、A組2位と、2位抜けならA組首位との対戦になる。そのA組は大混戦で、最終戦を迎えた時点では、全チームに可能性が残されていた。

 その混沌とした状況を生み出したのが、FIFA女子ランキングではグループ内最下位に位置しているフィリピンだ。オーストラリアの躍進基盤を築いたアレン・スタイチッチ監督のもと、強化を続けてきた。その成果が出たのは、昨年の女子アジアカップ。チャイニーズ・タイペイを破ってベスト4に入り、初めての女子ワールドカップ出場を決めた。

 そして、その本大会では、開催国ニュージーランドとのグループステージ第2戦で、WEリーグのちふれASエルフェン埼玉でプレーするサリナ・ボールデンのゴールで、W杯初勝利(1-0)をも手に入れた。

 チームへの期待の大きさからか、自国から近い地理的条件か、その両方か。たくさんのサポーターがニュージーランドに上陸した。ノルウェーとのGS最終戦では、スタジアムの最寄り駅から太鼓に合わせて気勢をあげ、会場のモニターにも盛り上がるフィリピンのファンばかりが映し出されていた。

 キックオフ早々、21番のカトリーナ・ギルーがボールを奪って切り込むだけで、割れるばかりの大歓声が起こる。3万4697名の観衆が入ったオークランドのイーデンパークスタジアムは、まるでフィリピンのホームのようだった。

 しかし、ノルウェーは、ヘーゲ・リサ監督が「素晴らしい雰囲気だった」と振り返ったように、委縮するところはなかった。FIFAランクでは、日本のひとつ下の12位の座にあるが、そこは、第2回女子W杯(当時は女子世界選手権)を制し、これまで8回の女子W杯で4つしか名前を連ねていない優勝国のひとつ。試合の入りではやや後手を踏みながらも、すぐに体勢を立て直す。フィリピンの2トップがプレスをかけづらい位置まで、センターバックが引いてボールを転がし、布陣の間延びを誘う。
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 そして、スピードの違いで、定石どおりにサイドから攻略にかかり、ソフィー・ローマン・ハウが角度のないところから、左足で合わせて先制する。その後は、フィリピンの最終ラインとハウの身長差を突いたハイクロスを多用し、ペースを握った。

 狙い通りにハウのヘディングシュートや、グラハム・ハンセンの振り向きざまのミドルシュートで加点していき、後半のアディショナルタイムにはハウがハットトリックを達成。退場者も出したフィリピンを無失点に抑えて6-0の大勝を飾るとともに、最終戦にして初白星を挙げ、辛くも2位通過を果たした。ベスト16では、日本対スペイン戦の勝者とウェリントンで対戦する。

 この日、大敗を喫したフィリピンは1勝2敗でグループ最下位に終わったが、熱狂的なファンはチームを最後まで支え続け、試合後にも讃えた。今大会の盛り上がりを見ると、今後が楽しみだ。

 GKのオリビア・マクダニエルは、フィリピンの子どもたちに「これは夢のようなこと。もっとエキサイティングなことを知っていますか。いつか、その選択を信じさせます」と伝えたいという。

 なお、A組のもう1試合、スイス対ニュージーランドはスコアレスドローに終わり、スイスが1勝2分で首位通過。ニュージーランドはノルウェーに勝利し、スイスとも引き分けたが、フィリピン戦の敗戦が響き、1勝1分1敗での予選敗退となった。

Text by AKIRA NISHIMORI

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