前線からのハイプレスと素早い攻守の切り替えで夏の王者・東福岡に食い下がった駒澤大高だったが、大野祥司監督が「一枚上手だった」という相手からの大金星はならなかった。

　両チームの実力差は確かにあった。結果は妥当なのかもしれないが、試合後のミックスゾーンに現われた大野監督が第一声で発した「相手が相手だっただけに、できればベストメンバーでやりたかった」との言葉には無念さも滲む。大事な一戦を前に駒澤大高はアクシデントに見舞われていたのだ。

　２年生CBの佐藤瑶大が、同点ヘッドを決めた３回戦の松山工戦で首を負傷。回復を待ったが、東福岡戦の朝に急遽欠場が決定した。

　そんな緊急事態を受け、CBへ抜擢されたのがキャプテンで「10番」を背負う深見侑生だった。

　本来は２トップの一角、または２列目を担うアタッカーだが、「能力が高く、どのポジションを任せてもある程度やってくれる」（大野監督）との理由での起用に、本人も「びっくりしました」と驚きを隠さなかった。もともとGK以外を経験してきたユーティリティプレーヤーで、今大会では試合途中から右SBを務めることもあったが、公式戦で、しかも先発でCBを務めたのはこの試合が初めてだった。

　いざ試合が始まると粘り強い対応と的確なカバーリングを見せ、東福岡のエースFW餅山大輝とのマッチアップも互角に渡り合う。後半14分、その餅山に一瞬の隙を突かれてエリア内に侵入を許すと、GKをかわされて絶体絶命のピンチを迎えたが、即座に反応した深見が間一髪でクリア。「実際にやったのも２年ぶりぐらい」（深見）というブランクを感じさせない働きには、指揮官も「良くやってくれました」と手放しで褒め称えた。

　攻撃だけでなく守備も適応する頼り甲斐のある姿は、まさにキャプテンにふさわしい存在だ。しかし、そんな深見も大会前は決して"優等生"ではなかったという。「練習に遅刻して来たり、勉強もできなくてどちらかというとやんちゃなタイプでした」（大野監督）との評価を下されて、Aチームに入れなかった時期もあった。

　それでも、「３年生のなかでは能力が抜けていたし、彼と心中するつもりで大会前にキャプテンに指名しました」（大野監督）という期待に対し、深見は託された役割をまっとう。最後は東福岡相手に力尽きたが、初のベスト８進出の快挙を成し遂げたチームにおいて「10番」の存在感はより一層際立っていたのは間違いない。
 
「悔しいですけど今はやり切った想いが強いです。頼りないキャプテンだったけど、後輩たちには付いてきてくれて本当に感謝しています」

　試合直後に比べ晴れやかな表情に変わった深見は、確かな成長の跡を残して、誇らしく大会を去った。

取材・文：橋本 啓（サッカーダイジェスト編集部）

【選手権PHOTOハイライト】駒沢／準々決勝　駒澤大高×東福岡