田中パウロ淳一と鬼木達監督の心温まるワンシーン。天皇杯の川崎×栃木シティFC戦で実現したかつての師弟の再会

2023年06月08日 本田健介(サッカーダイジェスト)

川崎が勝利するも、栃木シティFCも素晴らしい戦いを披露

栃木シティFCの田中と川崎の鬼木監督。天皇杯で再会を果たした(写真は先日の等々力でのイベント時のもの)(C)SOCCER DIGEST

[天皇杯2回戦]川崎3-1栃木シティFC/6月8日/等々力陸上競技場

 等々力陸上競技場で行なわれた天皇杯2回戦では、J1の川崎が関東リーグ1部所属の栃木シティFCに3-1で勝利を収めた。

 18分に遠野大弥の強烈なシュートで川崎が先制したが、果敢なプレスなど栃木シティFCも積極的なサッカーを披露。65分には右からのFW藤原拓海のクロスにFW戸島章が身体を投げ出しながら合わせて栃木シティFCが同点に追いついた。

 その後、川崎が遠野の2点目と宮代大聖のゴールで勝利を手繰り寄せたが、好ゲームと言える内容になった。
 
 その試合後、両ベンチの間で何やら会話をしていたのが川崎の鬼木達監督と、かつて川崎にも所属した栃木シティFCのFW田中パウロ淳一である。

 先日のリーグ戦(川崎と柏の一戦)では川崎のOBが集まるイベントが開催され、その時にも等々力を訪れていた田中だが、鬼木監督はOBたちと「あまり話せなかった」と後日、語っていただけに、天皇杯の試合後に近況を伝え合える場面が訪れたのだろう。

 試合後にこのシーンを田中に訊いてみると、20212年、高卒で川崎に加入した田中と、当時はトップチームのコーチを務めていた鬼木監督の感慨深い師弟関係も見えてきた。

「(あの場面は)オニさんに『覚えてる?』って言われていたんですよ。当時、僕を一番褒めてくれたのがオニサンで。何回も何回も寮に来てくれて、ご飯に行こうとも言ってくれて、何回も電話をしてくれて。それはもう嫌がるくらい(笑)。

 でもあの時は僕もまだ若かったので……。いい感じで(等々力に)戻って来られなかったですが、また戻ってきたいです」

 この日、川崎サポーターは試合後に健闘を称え合うかのように、栃木シティFCに大きな拍手を送り、栃木シティFCもそれに応えるように場内を回った。ただ、田中は川崎サポーターの近くまで行き、挨拶をすることはしなかったという。それはある覚悟があったからこそだ。

「(拍手をしてもらえて)サポーターを含めてやっぱり良いチームだなと思いました。そして僕はあそこの前まで行くべきだったと思いますが、チームが負けていて、そこに立つのは今じゃないのかなと思ったんです。でも、もう一回チャレンジできる機会があったら行きたいなと」

 そして力強く続けた。

「もう一回チャンスはあるはずです。また戻ってきます」

 ミックスゾーンでそんなやりとりをしている時に後ろを通った鬼木監督は、愛弟子を可愛がるような笑顔を向けて「だったらもっと活躍しないと」と言葉を送る。

 29歳の田中が再び等々力に戻り、サポーターを驚かすような活躍を見せた時、また新たなドラマが刻まれるのだろう。

取材・文●本田健介(サッカーダイジェスト編集部)

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