時間ある限り、横浜はゴールを目ざす。スタイルを貫いたからこそ招いた等々力劇場。俯く必要などない

2022年08月08日 藤井雅彦

信じる力をいま一度問われるラスト10戦に

是非を問う次元の話ではない。横浜は時間ある限り相手ゴールを目ざす。それだけのことだ。(C)SOCCER DIGEST

[J1第24節]川崎2-1横浜/8月7日/等々力陸上競技場

 優勝争いのライバルとして川崎を強く意識するならば、この一戦は引き分けでも十分な結果だった。リーグタイトルだけを見据えた時に、現在の勝点差と残り試合数を考えて優先すべきは相手に3ポイントを与えないこと。異論を挟む余地のない現実的な視点だ。

 翻って、横浜はこの試合の勝利だけを目ざした。8分と掲示された後半アディショナルタイムに入っても果敢に勝ち越し点を狙う姿勢は変わらない。決勝点を献上した場面から時計の針を巻き戻すと、CB岩田智輝の配給が右サイドのタッチラインを割ったプレーに辿り着く。引き分けを良しとするゲームプランならば不用意なプレーと指摘されても仕方ないが、あくまでもゴールを目ざす過程でのミスだ。

 状況比較でより勝点3が必要なのは、追いかける立場の川崎であろう。ならば最終ラインを中心にゆっくりボールをつなぎ、残り時間を減らしつつ相手の隙を狙う戦法も有効。だが前述したように横浜はそういった思考を持ち合わせていない。

 サポーター同士でも相容れないかもしれないが、これは是非を問う次元の話ではない。常識も当たり前もチームによって異なり、横浜は時間ある限り相手ゴールを目ざす。それだけのことだ。

 結果がラストプレーでの決勝点献上だとしても貫くのみ。だからケヴィン・マスカット監督も「最後のクロスをブロックしなければいけなかったとか、ファーサイドのケアが足りなかったとか、それは結果論に過ぎない」と決して選手を責めない。

 では、この大一番は川崎の完全勝利なのか。

 乾坤一擲のクロスで決勝ゴールをアシストした家長昭博の言葉が印象的だ。

「勝って(優勝争いに)首の皮一枚つながったけど、どちらが勝ってもおかしくなかったと思う。マリノスはこれからそんなに負けるようなチームではないと感じた。首位を走っているマリノスが一番良いサッカーをしている」
 
 勝ってなお相手を褒め称える姿勢は、数々の優勝を経験したから成せる業であろう。勝敗を点ではなく線としてとらえる俯瞰力はさすがの一言。順位表の現在地にかかわらず、川崎の強さの一端を見た。

 試合後、アウェーゴール裏を埋め尽くしたファン・サポーターへ挨拶に向かった横浜の一団。先頭を歩く喜田拓也は手を叩いて全体を鼓舞し、チームリーダーの水沼宏太の視線の強さも際立っていた。マルコス・ジュニオールは険しい表情の中に闘志をみなぎらせていた。本当の戦いはこれからだ。

 強い相手を上回ってタイトルを獲ることに価値がある。このチームを上回って頂点に立ちたいと思わせてくれる相手、それがこの日の川崎であった。

 スタイルを貫いたからこそ招いてしまった"等々力劇場"なのだから、俯く必要などない。信じる力をいま一度問われるラスト10戦になりそうだ。

取材・文●藤井雅彦(ジャーナリスト)

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