【U-18プレミアリーグ】市立船橋の守護神・寺尾凌が熱血コーチの理論的指導のもとで急成長中

2015年09月14日 安藤隆人

精神的な波が大きく、それを自分でコントロールできなかった。

市立船橋の守護神・寺尾。コーチもここ最近の成長ぶりを認めている。写真:安藤隆人

「今日はもう大丈夫ですよ」
 高円宮杯プレミアリーグEAST14節の市立船橋対FC東京U-18の試合後、市立船橋のGKコーチである伊藤竜一コーチに、「寺尾選手を記事で取り上げても良いですか?」と聞くと、こう笑顔で返してきた。
 
 伊藤コーチは朝岡隆蔵監督と同級生で、高校3年の時に市立船橋を初の選手権優勝に導いた守護神でもある。熱血的かつ厳粛な指導で、市船の守護神たちを鍛え上げている。
 
 昨年は志村滉(磐田)にGKの基礎を叩き込み、今は寺尾凌に理論的で厳しい指導をしている。その成果もあって、今年に入っての寺尾の成長スピードは凄まじい。新チームから正GKの座を掴むが、春先は不安定さが目立ち、ミスも多く、スタメンから外されたこともあった。
 
「伊藤コーチから徹底して、ポジショニングを中心に指導してもらいました。それまで僕は無駄なステップが多く、それが原因で反応が遅れたり、キャッチミスをしてしまうシーンがあった。細かいステップワークから、いかに正しいポジションを一つひとつのシーンで取り続けられるか。そこを意識して練習をしていくうちに、自分の長所であるシュートストップもよりうまくいくようになりました」
 
 寺尾自身がこう語ったように、試合をこなすごとに安定感は増し、ビッグセーブを連発するようになった。
 
「彼の悪いところはプレーに波があるところ。無駄なステップも多いし、すぐに調子に乗ってしまう。精神的な波が大きく、それを自分でコントロールできなかった。試合中も良いプレーをした直後に、失点をするシーンが多かったので、まずはそこを地道に直していこうと、『自立』をテーマに指導しました」(伊藤コーチ)
 
 だからこそ、ここまでユース系のメディアに登場してこなかったのは、まだ悪い癖が直りきっていない状況で、ちょっと良い活躍をしたからと言って、メディアに取り上げられたら、彼の性格上良くないという、伊藤コーチの親心からだった。
 
 その伊藤コーチから『GOサイン』が出た。それはそれだけ寺尾が成長したということであり、それほどこのFC東京U-18戦でのプレーが秀逸だったからでもあった。
 
 立ち上がり2分にPKで先制に成功した市立船橋だったが、以降はFC東京の猛攻に晒されるも、ここで寺尾が強固な壁となって立ちはだかった。
 
 35分、相手の強烈なミドルシュートを、軽やかな横っ飛びでスーパーセーブすると、54分に左CKからDF渡辺拓也のヘッドを、コースを読み切ってセーブ。直後の左CKからの折り返しを、再び渡辺にヘッドで合わされるが、これも冷静に右手一本ではじき出した。この3つのプレーこそ、彼の成長を示したビッグセーブだった。
 
「以前は予測してジャンプしたり、ステップを踏んでいたけど、今はしっかり相手と味方の状況を見て、ボールの軌道も見たうえでポジショニングや反応ができています。あの2つのヘッドのシーンは、ボールが入る時の中の状況がしっかりと見えていたので、相手がどこで、どのタイミングでヘディングシュートを打って来るのかが分かった。無駄なステップを踏むことなく、スムーズにコースに入って、防ぐことができました」
 
 決して偶然や反射的な身体の反応に頼っただけではないセービング。この冷静かつハイレベルなプレーが、チームに1-0の勝利を呼び込んだ。この勝利の立役者は、文句なしで寺尾だった。
 
 熱血コーチの指導を受け、着実に成長する市船の守護神・寺尾凌。取材後、「この後の伊藤コーチが怖いです」と寺尾が語れば、伊藤コーチも「コラムが載ったあと、彼を締めておきます(笑)」と語る。ここにも深い師弟愛を垣間見ることができた。
 
取材・文:安藤隆人(サッカージャーナリスト)
 
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