現地紙コラムニストが綴る【武藤嘉紀のブンデス挑戦記】移籍最終日のふたつの売買は武藤にどう影響するのか

2015年09月09日 ラインハルト・レーベルク

マッリの控えとして「トップ下・武藤」は機能する。

ク・ジャチョルを放出し、コルドバを獲得して終了したマインツの今夏の移籍市場。期限最終日のこの売買は、武藤にどんな影響があるのか。 (C) Getty Images

 新天地マインツでの1年目、はたして武藤嘉紀はどんなパフォーマンスを見せるのか。現地紙でコラムニストを務めるラインハルト・レーベルク記者の筆で、武藤の「挑戦記」をお届けする。
 
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 8月31日をもって、今夏の移籍マーケットが終了した。「デッドライン・デー(期限最終日)」には数々の駆け込み移籍があり、マインツもふたつの売り買いをした。いずれも武藤嘉紀にも関わる動きだ。
 
 マインツは期限最終日、ポリバレントな韓国代表MFク・ジャチョルを500万ユーロ(約7億円)で古巣アウクスブルクに放出し、スペインのグラナダから60万ユーロ(約8400万円)でジョン・コルドバというコロンビア人のセンターフォワードを獲得した。
 
 コルドバの獲得で、センターフォワードは武藤を含めた3人体制となった。ドイツ国内はもちろん国外に目を向けても、ひとりで全ての戦術的要求に応えられるセンターフォワードはなかなか見つからない時代である。
 
 コルドバ、武藤、そしてフロリアン・ニーダーレヒナーの3人を、マルティン・シュミット監督は対戦相手や状況に応じて使い分けていくことになる。
 
 ゴール前の得点力が欲しい場面では、2部のハイデンハイムから200万ユーロ(約2億8000万円)で獲得したニーダーレヒナーが起用される。
 
 24歳のニーダーレヒナーは186センチと大型で、まだ粗削りではあるが、足でも頭でもゴールを狙える。
 
 カウンターを機能させたい、とくに格上が相手の試合では、ターボチャージャーを搭載した武藤の出番となる。280万ユーロ(約3億9200万円)でFC東京から獲得した日本代表のアタッカーは、裏に抜けるスピードが抜群だ。
 
 コルドバがピッチに立つのは、前線でターゲットとなり、ボールを収めてパス回しにも手を貸せる基準点型が必要な局面でだ。
 
 188センチと上背があるコルドバは、技術的にもしっかりしており、22歳ながらリーガ・エスパニョーラで54試合・8得点(エスパニョールとグラナダ)という実績を持ち合わせている。
 
 生粋のセンターフォワードであるニーダーレヒナーとコルドバに対し、武藤はマルチなアタッカーで、チームに戦術的な幅を与える貴重な存在と言えるだろう。
 
 前述のようにトランジション(攻守の切り替え)が肝になる試合で1トップを務められるし、センターフォワードと組む2トップの一角としてもプレーが可能だ。
 
 そして4-2-3-1、あるいは4-3-3のアウトサイドでも、もちろん機能する。スピードと安定したボールスキルで、仕掛け/崩しで違いを作り出すことができるのだ。
 
 実は、放出したク・ジャチョルの後釜を獲得しなかったのは、武藤の存在があったからだ。2列目を幅広くこなすク・ジャチョルは、トップ下を務めるユヌス・マッリの信頼できるバックアップでもあったが、その穴は武藤で十分に埋まるとクラブは判断したのである。
 
 マッリのような局面を打開するスルーパスこそ持ち合わせてはいないものの、武藤はエリア付近の密集地帯でもしっかりとボールを受けてさばくことができ、俊敏な動き出しでシュートチャンスを作り出せば、裏のスペースを突いてラストパスを引き出すこともできる。
 
 マッリよりもFW的な「切り替えの10番」として、トップ下・武藤は機能するとシュミット監督は考えているのだ。
 
 ちなみに、現在3部で2位につけるセカンドチームには、フィリップ・クレメントというトップ下の有望株がいる。卓越したボールテクニックを持つ、マッリのようにドリブルとパスで打開する10番タイプだ。
 
 代表ウイークが明けてリーグ戦が再開する今週末、マインツはアウェーでシャルケと対戦する。3-0で勝利した前節のハノーファー戦で2ゴールを奪うハイパフォーマンスを見せた武藤は、再びカウンターを狙うセンターフォワードとして起用されるだろう。
 
 武藤は早くも、マインツの希望の星となっている。
 
文:ラインハルト・レーベルク 「マインツァー・アルゲマイネ新聞」コラムニスト
翻訳:円賀貴子
 
Reinhard REHBERG
ラインハルト・レーベルク
『ライン新聞』で1987年から27年に渡ってマインツの番記者を務める。現在はフリーで、『マインツァー・アルゲマイネ新聞』のコラムニストを務める一方、監督業を志す指導者に向けたコーチングも行なっている。マインツ出身、57年7月30日生まれ。
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