痛快な“スキッベ・フットボール”が面白いワケ。リスク覚悟の強気戦術を機能させている指揮官の手腕は最高だ【広島】

2022年06月12日 志水麗鑑(サッカーダイジェスト)

強気なハイプレス戦術で相手に脅威を

広島のスキッベ監督。魅力的なサッカーを展開している。写真:金子拓弥(サッカーダイジェスト写真部)

 ルヴァンカップ・プレーオフステージ第2戦の札幌戦で広島は、持ち前のハイプレスを立ち上がりから見せた。印象的だったのはボランチの野津田岳人で、最前線まで上がってプレッシングに連動。それは中盤でコンビを組んだ青山敏弘も同様で、野津田とのバランス次第で前からDFに圧力をかけるシーンもあった。

 実際、20分には連動したプレッシングで相手のミスを誘い、スピーディなアタックから満田誠→ジュニオール・サントスの連係でゴールに迫った。51分にも前線からのプレスでボールハント。ショートカウンターから森島司と満田のコンビネーションで相手ゴールを脅かしている。

 武器のハイプレスが実を結んだのは87分だった。右サイドで野津田がボールを奪うと、そこから左サイドの森島へ展開。一度はボールを失ったがすぐ奪い返した東俊希が横パスを送り、最後は満田が冷静にネットを揺らした。この得点で1-1と引き分け、敵地での第1戦は3-0で制していたので、プライムステージ準々決勝進出を決めている。
 
 ホームで行なわれた第2戦は1ゴールにとどまったとはいえ、チャンスの数は多かったので、やはり広島の"スキッベ・フットボール"は面白かった。心が躍る理由は、バイタルエリアや最終ライン裏という危険なスペースを空けるリスクがあるにもかかわらず、強気なハイプレス戦術で相手に脅威を与える戦い方が痛快だからだ。攻めに転じれば2、3列目から選手がドンドン飛び出して攻撃に厚みをもたらすので躍動感がある。得点シーンは好例だろう。

 もっとも、リスク覚悟なので上手くいかない時間帯もあった。特に前半はプレスを剥がされて攻め込まれるシーンもあり、実際に34分にはクロスから失点している。それでもハイプレスからのショートカウンターで同点に追いついているわけで、強気戦術を続けられる要因はいったいなんなのか。

 記者席からの視点で紐解いてみると、例えば26分のシーンでは、左ストッパーの佐々木翔がオーバーラップしていたのだが、佐々木が空けたスペースはスっと野津田が埋めていた。逆サイドもしかりで、49分に右ストッパーの野上結貴が攻めあがると、最終ラインの右は青山がカバーしていた。つまり誰かがチャレンジしたプレーの裏に潜むリスクは味方が必ずフォローしている。実際、CBの荒木隼人は「全員が戻って守備ができるのは良いところ」と述べていた。

 荒木によればスキッベ監督からは「ミスを恐れずにやろう」という話がよくあるという。よく聞くありがちなフレーズではあるものの、ドイツ人指揮官はミスをしてもいい仕組み作りをしているから、説得力がまるで違う。不安なくプレーできる選手たちは豪快にチャレンジできる。

 監督はタイトル獲得など結果を残したら評価されるのが通例だが、スキッベ監督のように選手の強みを引き出して思う存分に躍動させる手腕も最高だと思う。

取材・文●志水麗鑑(サッカーダイジェスト編集部)

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