【新連載】月刊マスコット批評①「ザクミ」――南アフリカらしさが凝縮された秀逸なセンスが光る

2015年07月10日 宇都宮徹壱

マスコットを批評する6つの指標とは?

ワールドカップではこれまで13種類の大会マスコットが登場したが、南アフリカ大会の『ザクミ』はデザインもネーミングのセンスも秀逸だった。写真:宇都宮徹壱

ザクミ(2010FIFAワールドカップ・南アフリカ大会)
 
■ザクミの評価(5段階)
 
・愛され度:3.5
・ご当地度:5.0
・パーソナリティ:4.0
・オリジナリティ:4.5
・ストーリー性:4.5
・発展性:4.0

 
 スポーツ界のマスコットは、「チームマスコット」と「大会マスコット」の2種類に大別される。
 
 当連載では、この2種類について国内外を問わず扱うことにする。いわゆる「ゆるキャラ」は、マスコットではない、というのが私の主張なので除外。ただし国体のマスコットに関しては、FC岐阜の応援マスコットに昇格した『ミナモ』の例があるので、ケースバイケースとする。
 
  第1回となる今回は、ワールドカップの大会マスコットにスポットを当てながら、当連載の方向性についてのプレゼンテーションを試みることにしたい。

 ワールドカップのマスコットは、1966年イングランド大会の『ウィリー(ライオン)』を嚆矢とする。以来、2014年ブラジル大会の『フレコ(アルマジロ)』に至るまで13種類の大会マスコットが登場したわけだが、記憶に残る素晴らしいものもあれば、永遠に忘れてしまいたい残念なものもあった。
 
 後者の最たる例が、2002年日韓大会のアトー・ニック・キャズの3人組であったのは、日本のサッカーファンにとって(そして韓国側にとっても)実に不幸なことであった。
 
 私がマスコットを批評する際の指標は「愛され度」、「ご当地度」、「パーソナリティ」、「アクティビティ」、「ストーリー性」、「発展性」の6点。
 
 2002年のマスコットに関しては、大気圏外を出自とする「ストーリー性」は最低限の評価をしてもよいが、アジア初のワールドカップを感じさせる「ご当地度」がまるで見出せなかったのが致命的であった。「押し付けられた共催」を象徴するような、最悪のデザインであったと言わざるを得ない。
 
 逆に「ご当地度」をはじめ6要素を過不足なく満たしていたのが、2010年南アフリカ大会の『ザクミ』である。ヒョウをイメージしたデザイン、そして「ZA(南アフリカのドメイン)」、「KUMI(10の意味=2010年)」を合わせたセンスは秀逸。イエローとグリーンを基調としたカラーリングも、南アフリカの国旗を意識したことが窺える。
 
 ちなみに「発展性」というのは、グラフィックでも3Dでも違和感なく応用が効き、商品化もしやすいこと。「ストーリー性」については当初の設定のみならず、その後のキャラクターの独り立ちも重視している。
 
 デビュー当時は動きが覚束なかったザクミが、努力の末に大会終盤になると小気味良いステップを刻むようになっていたのには、深い感動を覚えた。あれから5年。ザクミは今もアフリカの大地を元気に駆けまわっているのだろうか。
 
宇都宮徹壱/うつのみや・てついち 1966年、東京都生まれ。97年より国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。近著に『フットボール百景』(東邦出版)。自称、マスコット評論家。公式メールマガジン『徹マガ』。http://tetsumaga.com/
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