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アイデンティティを失ったバルサのパワープレー。それでも“行動規範”は受け継いでいた【小宮良之の日本サッカー兵法書】

カテゴリ:メガクラブ

小宮良之

2021年10月05日

バルサのプレーはちぐはぐだったが…

ピケとともにDFのアラウホ(右)を前線に残す策が奏功して、バルサはドローに持ち込んだ。(C)Getty Images

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 2021年9月、カンプ・ノウでのグラナダ戦。FCバルセロナは終盤までリードを許していた。

 ロナウド・クーマン監督が率いるバルサは、開幕から歯車がかみ合っていなかった。欧州チャンピオンズ・リーグ、グループリーグ初戦では一昨シーズンの欧州王者バイエルン・ミュンヘンに完敗。その上、本拠地で格下グラナダに無得点で負けることは、黄信号が赤信号に変わることを意味していた。

 クーマン監督は後半になって、本来センターバックのジェラール・ピケを完全にFWで起用。また、セットプレーのたびに同じくセンターバックのロナウド・アラウホまでが前線に残るようになった。そこにクロスを集中させ、いわゆるパワープレーでゴールをこじ開けようとしていた。

 そこで、焦点となるシーンがあった。

 アラウホが、ペナルティエリアで相手に倒される。交錯はしていたが、そこまで激しい衝突ではなかったのに倒れたからか。相手選手たちが一斉に群がって、「シミュレーション行為を止めろ」と食って掛かった。

 これに対し、真っ先に割って入ったのが、センターバックのエリク・ガルシアだった。E・ガルシアはあまりに勢いよく突っ込んだので、払った手が一人の選手の顔に当たり、騒然となる。E・ガルシアは反発を受けたが、アラウホのために立ちはだかった。

 主審が間に入ったが、アラウホは不当な扱いを受けた。イエローカードも提示され、激高した。なおも相手選手に食い下がろうと熱くなった。

 そこで、ピケが半ば強引にアラウホを引き留め、引き下がらせた。主将のピケはあくまで冷静だった。主審に権利を主張しつつ、チーム全体を戦いに集中させている。
 
 その直後だ。
 
 右からのアーリークロスをエリア内にいたアラウホが、全力のヘディングで競り勝ってピケに落とした。ピケがこれをつなぎ、交代出場していたガビがクロスを送ると、再びポジションを取っていたアラウホが果敢に飛び込む。ヘディングでの同点弾となった。
歓喜の咆哮を上げるアラウホを、ピケが、E・ガルシアが祝福した。
 
【動画】ピケをFWに上げ…バルサがパワープレーで奪った同点弾
 バルサのプレーはちぐはぐだった。パスはパスをつなぐためだけのもので、走り込むタイミングは合わない。パワープレーなど、アイデンティティを失った最たる証拠だった。
 
 しかし、バルサの選手としての行動規範は受け継いでいた。必死にプレーする選手同士が、お互いを気遣って助け合い、戦うことに集中し、プレーで借りを返す。その一点だけで、彼らは同点に持ち込んだ。
 
 サッカーは何気ない行動に、本質が出る。
 
 かつてバルサは最強を極めた。それは特殊なまでに高められたスキルとコンビネーションによるものだった。ただ、その根幹となっていたのは選手の信念と行動規範だったと言える。

 同時に、それは強さを取り戻す「足掛かり」でもあるのだ。

文●小宮良之

【著者プロフィール】
こみや・よしゆき/1972年、横浜市生まれ。大学在学中にスペインのサラマンカ大に留学。2001年にバルセロナへ渡りジャーナリストに。選手のみならず、サッカーに全てを注ぐ男の生き様を数多く描写する。『選ばれし者への挑戦状 誇り高きフットボール奇論』、『FUTBOL TEATRO ラ・リーガ劇場』(いずれも東邦出版)など多数の書籍を出版。2018年3月に『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューを果たし、2020年12月には新作『氷上のフェニックス』が上梓された。

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