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いまや“騎兵”にも守備が求められる時代。メッシのような防御をしない選手はほぼ…【小宮良之の日本サッカー兵法書】

カテゴリ:連載・コラム

小宮良之

2020年06月10日

シメオネはファンタジスタにも、拠点防御のタスクを背負わせている

その破壊力が凄まじいだけに、メッシは守備のタスクが軽減されている。(C) Getty Images

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 兵種によって、持ち場の役割は大きく変わる。例えば、軍事的に「神速を尊ぶ」騎兵は遊軍として、速度を生かし、奇襲を仕掛ける点で、本来的な強さを発揮させられる。拠点にとどまって守備をさせると、スピードを失うことによって、その利点をなくしてしまうのだ。

 日露戦争で、当時、世界最強を誇ったコサック騎兵を撃ち破った秋山好古は、騎兵を講義で説明するのに、素手の拳で硝子を叩き殴って、破片で血を流した。それによって、騎兵の打撃力と防御の脆弱性を示したことで知られる。

 サッカーにおいても、この点は変わらない。

 例えば、単独で相手陣内を切り裂き、決定的な打撃を与えられるリオネル・メッシは、1試合5~6キロほどしか走らず、遊軍に近い。守備の拠点防御という概念はない。敵陣で攻め続けることで、攻撃が最大の防御、になっている。たとえボールを失ったとしても、高い位置で取り返すことで、ショートカウンターでダメージを与えられる理屈である。しかし防御面は、他の選手に負担を強いることになる。

 メッシのような存在を活用するには、チーム全体のプレーコンセプトが大きく関わってくるだろう。バルサのようにボールプレーを重んじ、攻撃的センスに長けた選手の集団であることが条件になる。さもなければ、メッシの守るべき一角は弱点になってしまうのだ。

 昔の点取り屋たちも、多かれ少なかれ、メッシのような立場だっただろうか。
 
 一方、アトレティコ・マドリードのディエゴ・シメオネ監督は、選手に攻守両面のハードワークを要求する。リトリートした時は各自、持ち場を守り、防御線を張り巡らし、そこを越えさせない。言い換えれば、どのようなファンタジスタにも、拠点防御のタスクを背負わせている。アントワーヌ・グリーズマン、ジョアン・フェリックスなどの有り余る攻撃能力を削っても、だ。

 その流れは、匙加減は違っても、多くのクラブに共通しているだろう。

 例えばエイバルの乾貴士は、拠点防御の戦い方を習得することによって、主力となり、エースとなっていった。守備は“アリバイ作り“であってはならない。一人突出し、プレスをかけても、トッププロではボールを奪えないだけでなく、背後を脅かされる。そこで対面するボールホルダーに対し、その進路を妨害し、中へのパスコースを遮断するポジションを堅実に取れなければならない。

チームの一員として、まずは拠点を守り、防御線から敵を退けるのが先決だ。

 結局のところ、現在は多くのチームの“騎兵”たちが、攻撃だけでなく防御の仕事も求められている。

 騎兵は騎兵としてのキャラクターを持ちながら、集団戦では適応する必要があるのだろう。事実、秋山も有名な黒溝台の戦いでは、騎兵を塹壕に入れ、拠点を防御させた。歩兵、砲兵、工兵を連携させることによって、部隊としての威力を上げていたのだ。

文●小宮良之

【著者プロフィール】
こみや・よしゆき/1972年、横浜市生まれ。大学在学中にスペインのサラマンカ大に留学。2001年にバルセロナへ渡りジャーナリストに。選手のみならず、サッカーに全てを注ぐ男の生き様を数多く描写する。『選ばれし者への挑戦状 誇り高きフットボール奇論』、『FUTBOL TEATRO ラ・リーガ劇場』(いずれも東邦出版)など多数の書籍を出版。2018年3月には『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューを果たした。
 
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