時間と感情を共有する仲間は信頼で結ばれ、その絆は固い
中村俊輔に抱くイメージは“静”だ。ピッチレベルで見る中村は、激しく感情を露わにしてプレーするというより、闘志を内に秘めて戦っているように映る。ただ、内包している闘志はあくまでも強く熱い。中村が見せるサッカーには何より気骨がある。
ボールタッチは繊細で、繰り出すパスは高い精度を誇り、巧みなステップと抜群のキープ力で敵を翻弄する。攻撃的MFとしてのあらゆる能力に長け、チームの勝利を演出。日本プロサッカーの歴史にその名を刻む希代の選手だ。彼の代名詞である正確無比なFKは数々のドラマを生み出してきた。人々は中村のプレーに、サッカーの芸術性を見る。
そんな中村が築き上げてきたゴールの中で心に残っているシーンがある。それは2012年8月4日、ベガルタ仙台対横浜F・マリノス戦で挙げたゴールだ。理由は、“静”のイメージがある中村が、得点後にふたつの異なる表情を見せたからだ。
リードを許していた横浜は、65分の中村のゴールで同点に追いつく。得点を決めた中村は自陣ベンチのほうへ駆け寄りながら、右腕に巻いていた喪章を外すと、空へと掲げた。ファインダーに捉えた中村の表情はゴールの歓喜というより、どこか寂し気にも見えた。
視線の先に見ていたのは、かつてピッチで熱くファイトした男だった。
この日は、横浜や代表でともに戦った松田直樹さんの命日だった。チームを構成する選手たちは多くの時間を共有する。共有するのは時間だけではない。勝利の喜びを分かち合い、思うような結果が出なかった時の悔しさをともに噛み締める。時間と感情を共有する仲間は信頼で結ばれ、その絆は固い。
中村は苦楽をともにした元チームメイトへ万感の思いを込めて、巻いていた喪章を空に掲げたのだ。松田さんに捧げるゴールとなった。
しかし、寂し気と思えた表情を見せた中村だが、決して悲しいわけではなかったはずだ。思いが松田さんに届いたことを感じ取ったのか、中村はすぐに“動”の満面の笑顔を作ったのだった。
取材・文・写真●徳原隆元
【PHOTO】「伝説のFK弾」も!中村俊輔のキャリアを厳選フォトで振り返る 1997~2020
ボールタッチは繊細で、繰り出すパスは高い精度を誇り、巧みなステップと抜群のキープ力で敵を翻弄する。攻撃的MFとしてのあらゆる能力に長け、チームの勝利を演出。日本プロサッカーの歴史にその名を刻む希代の選手だ。彼の代名詞である正確無比なFKは数々のドラマを生み出してきた。人々は中村のプレーに、サッカーの芸術性を見る。
そんな中村が築き上げてきたゴールの中で心に残っているシーンがある。それは2012年8月4日、ベガルタ仙台対横浜F・マリノス戦で挙げたゴールだ。理由は、“静”のイメージがある中村が、得点後にふたつの異なる表情を見せたからだ。
リードを許していた横浜は、65分の中村のゴールで同点に追いつく。得点を決めた中村は自陣ベンチのほうへ駆け寄りながら、右腕に巻いていた喪章を外すと、空へと掲げた。ファインダーに捉えた中村の表情はゴールの歓喜というより、どこか寂し気にも見えた。
視線の先に見ていたのは、かつてピッチで熱くファイトした男だった。
この日は、横浜や代表でともに戦った松田直樹さんの命日だった。チームを構成する選手たちは多くの時間を共有する。共有するのは時間だけではない。勝利の喜びを分かち合い、思うような結果が出なかった時の悔しさをともに噛み締める。時間と感情を共有する仲間は信頼で結ばれ、その絆は固い。
中村は苦楽をともにした元チームメイトへ万感の思いを込めて、巻いていた喪章を空に掲げたのだ。松田さんに捧げるゴールとなった。
しかし、寂し気と思えた表情を見せた中村だが、決して悲しいわけではなかったはずだ。思いが松田さんに届いたことを感じ取ったのか、中村はすぐに“動”の満面の笑顔を作ったのだった。
取材・文・写真●徳原隆元
【PHOTO】「伝説のFK弾」も!中村俊輔のキャリアを厳選フォトで振り返る 1997~2020