アトレティコやヘタフェが示す進化した“守備戦術”【小宮良之の日本サッカー兵法書】

カテゴリ:連載・コラム

小宮良之

2020年05月18日

「アンチ・フットボール」との批判もあるが…

就任9年目のシメオネが植え付けたアトレティコの守備戦術は一つの完成形に近い。(C) Getty Images

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 戦国時代の合戦はお互いが守りを固め、殺傷力を増し、その繰り返しで、最後は天下一統という形で沈静化した。経済的に恵まれた戦国大名は、攻撃の発展が顕著。動員力と火縄銃で、戦いの形そのものを変えたのだ。ただ、地道に進化したのは防御だろう。

 例えば、城の守りでは土塁よりも石垣で強固になっている。堀も深く掘るだけでなく、堀の下をうねるように掘ったり、水を張ったりで、防御力を高めた。また、戦国最強を誇った武田家は丸馬出しを虎口の前に遮蔽施設、及び出撃施設として拵え、これは最先端だった。武田家と長く格闘し、滅ぼした徳川家康は、丸馬出しを自分の城に活用している。

 戦いは、イコール進化だ。

 城が要塞として極まったと言えるのは、小田原城か。町をそっくり囲んだ総構えという作りで、堅牢さを誇っている。その作りは完璧に近く、総構えはその後、戦国末期の城はこの形が基本になっていった。城は最終形態に行き着いた。

 サッカーの世界も、いかに守るか、で戦術は進化を遂げてきた。守りの組織は、リオネル・メッシやクリスチアーノ・ロナウドのようなスーパープレーヤーがいなくても、いくらでも構築が可能である。極論すれば、凡庸な監督と選手だけでも、守る形そのものは作れる。

「無限に形があって、難しいのは攻撃で、守備のパターンは限られている」

 名将マルセロ・ビエルサ監督が明言しているように、守備を整えるのには神業を必要としない。

 もっとも、守備は守備として革新されてきた。ラ・リーガでは、アトレティコ・マドリーのディエゴ・シメオネ監督が編み出した守備戦術が一つの完成形と言えるだろう。各ラインがコンパクトに間隔を保ち、幾重もの防御戦線を構成し、局面で相手を囲んでせん滅し、ボールを奪い取ったら、迅速に敵陣を突く。戦いにおける士気の高さで相手を凌駕するのだ。
 
 その点、ヘタフェのホセ・ボルダラス監督は、守備戦術において少なからずシメオネの影響を受けている。

「アンチ・フットボール」

 ヘタフェの戦い方は、そう対戦相手から批判を受けるほど、ボールに対する寄せ方は厳しく、いささか乱暴にも映る。フィジカルインテンシティを軸に、規律正しい守備から素早いカウンターで勝負をつける。その戦闘能力の高さで、昨シーズンはヨーロッパリーグ(EL)出場権を得たが、今シーズンはELを並行して戦いながら、(コロナ中断時点で5位。4位までに与えられる)チャンピオンズ・リーグ出場権獲得も可能な位置につけている。

 そうして防御戦術が極まることによって、それを破る攻撃戦術も進化するのだろう。その繰り返しが、サッカーの発展の歴史なのかもしれない。守りが極まったと思った瞬間――。リバプールのショットガンのような攻撃やバルセロナのティキタカ、あるいはメッシやC・ロナウドのような選手の想定外のプレーが、難攻不落の防御を蹴散らすのだ。

文●小宮良之

【著者プロフィール】
こみや・よしゆき/1972年、横浜市生まれ。大学在学中にスペインのサラマンカ大に留学。2001年にバルセロナへ渡りジャーナリストに。選手のみならず、サッカーに全てを注ぐ男の生き様を数多く描写する。『選ばれし者への挑戦状 誇り高きフットボール奇論』、『FUTBOL TEATRO ラ・リーガ劇場』(いずれも東邦出版)など多数の書籍を出版。2018年3月には『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューを果たした。
 
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