【浦和】興梠慎三――技あり決勝弾に込めた想い

2015年06月08日 サッカーダイジェストWeb編集部

「上手く目の前に落ちてきた。難しいシュートのほうが入るんで(笑)」

シュートフェイントで相手をかわし、左足を振り抜く。イメージどおりの流れるような動きで清水ゴールをこじ開けた。 写真:滝川敏之(サッカーダイジェスト写真部)

 優勝に王手をかけて臨んだ第1ステージ15節の清水との一戦は、序盤から緊迫した攻防が続いていた。だが52分、興梠のひと振りによって、0-0のこう着状態に終止符が打たれる。

【J1 PHOTOハイライト】浦和 1-0 清水
 
 浦和が中盤でのビルドアップから、前線に縦パスを入れると攻撃がスピードアップ。ルーズボールを相手がクリアし切れず、ゴール前が混戦になったところに柏木が突っ込むと、ボールは背番号30の足もとにこぼれてきた。
 
 すると興梠は、間髪入れずに右足のシュートフェイントで対面の守備者をかわすと、体勢をやや崩しながらも淀みのない動きで左足を振り抜き、ボールはゴール右隅へと吸い込まれていった。
 
「相手の間からゴールが見えたので、そこを通せば行くと思った。上手く目の前に落ちてきたので、前(のDF)をかわして打つだけ。難しいシュートのほうが入るんで(笑)」
 
 ステージ制覇へ、また一歩近づく貴重な一撃――。

 殊勲の決勝ゴールを奪った興梠だが、コンディションは決して万全ではない。昨季負傷した右足腓骨骨折の影響もあり、開幕前のキャンプにも出遅れ、別メニュー調整を余儀なくされた。シーズンが開幕しても、怪我の箇所を無意識に庇うあまり、身体のバランスが崩れてしまい、別の箇所を痛めてもいた。
 
 しかし、昨季終盤の優勝争いが佳境を迎えた時期に、自らが出場できなかった悔しさと、今年こそチームの役に立ちたいという強い想いが背番号30を奮い立たせた。さらに今季の浦和は、ACLとリーグ制覇のために11人(復帰組も含む)もの選手をチームに加え、ポジション争いは一気に熾烈に。

 昨季まではCFの一番手に君臨していた興梠でさえ、与えられたチャンスで結果を残さなければ先発の座から弾かれてしまう。こうした厳しい環境が、興梠の闘争心に火を付けた。
 
「武藤もズラタンも、スタートから出場しても、途中から出場しても結果を出している。チーム内のレギュラー争いが厳しくなっているし、そうしたなかで一人ひとりが良い緊張感を持ってプレーできているので、(チームとしても)結果につながっていると思う」
 
 "コイツに負けたくない"という想いが攻撃陣全体へと波及し、プラスの効果を与えている。チームの勢いに引っ張られるように興梠も得点を重ね始め、ここまでのリーグ戦5得点はチーム内で2位の数字だ。
 
 第1ステージも大詰めを迎え、いよいよ次節の神戸戦で引き分け以上の結果を残せば、浦和の優勝が決まることは確定している。チームは今日の勝利によってさらに勢いを加速させ、「大事なのは結果。今まで内容が良くても負けていた試合が多かった。貪欲に勝点3を取るほうが強いし、(鹿島で)何回か優勝を味わってきたなかで、調子が悪い時にも勝点3を取れるかが重要になる」と、興梠は強い口調で語った。
 
「20点取れるような選手になるために、もっと細かい部分を追求したい」
 
 どこまでも貪欲なFWはチームと自身をさらに進化させ、高みへと導くだろう。目の前の相手を倒し続け、"15戦負けなし"の記録を築き上げてきたチームのなかで、勝利の味を知る男は眩いほどの輝きを放っている。
 
取材・文:石田達也(フリーライター)
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