【松本】J1初勝利――。結実した田中隼磨の熱き想い

2015年03月23日 長谷川遼介

厳しい言葉を発しながらチームを牽引。

身体を張った守備で松本のJ1初勝利に貢献した田中。自身の経験をチームに伝えている。写真:滝川敏之(サッカーダイジェスト写真部)

 報道陣に囲まれれば、試合の結果がどうであれ、いつだって涼しげにハッキリした口調で応じる。だが、そんな田中隼磨とて、J1初白星をもぎ取る瞬間まで、胸中は穏やかではなかっただろう。
 
【J1 PHOTOハイライト】1stステージ・3節

 J1での通算出場数は358。そのキャリアは、チームのなかで突出している。松本で2年目を迎える今季は、開幕前からJ1に初挑戦するチームで「経験のなさは言い訳にならない。新しい選手をサポートしながら、練習から細かい部分を厳しく要求していく」と、これまで以上に精神的支柱として存在感を強めていた。だが、ナビスコカップを含め、開幕から3試合で1分2敗と勝利を手にできなかった。
 
 古巣の名古屋に挑んだ開幕戦は、2度のリードを守れずチームの未熟さを露呈した。先制した1分後に同点ゴールを許すと、3-1とした76分からわずか4分間で2失点。得点した直後が大事だと感じながらも、「3度同じことを言って、3回ともやられた。伝え切れなかった俺の責任」。続く2節の広島戦では、初黒星を喫し、中3日で臨んだナビスコカップのアウェー鳥栖戦ではフル出場したが、後半アディショナルタイムに勝ち越され、試合後に珍しく激高した。
 
 その田中の胸中を、反町康治監督はこう察する。
 
「隼磨が言っていたけど、J1に上がってからが本当のスタート。なのに今は、J1クラブに所属していること自体が勲章になっているヤツもいる。生半可な気持ちで同じ舞台にはいられないんだ」
 
 戦う集団になっていない─―、忸怩たる思いがあったことは、想像に難くない。
 
 その想いをアイスタでの清水戦で晴らしたのだ。19分に先制点を奪うと、ゴール直後、試合終了間際と、カギとなる時間帯でチームは集中を切らさず、初めて無失点で終えた。「名古屋戦と同じように先制する展開だったけど、今度は無失点に抑えられた。身体を張ることの大事さをチーム全体が感じられたと思う」と振り返る。
 
 ただ、この1勝は松本にとっての第一歩でしかない。「山雅にとって記念すべき日になったけど、まだまだやることはある。これを通過点にしないと」。生まれ故郷のクラブで、かつての先輩・松田直樹と同じ背番号3を背負う男の視線は、すでに遥か先を見据えている。
 
取材・文:長谷川遼介(フリーライター)
 
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 3月26日(木)発売号のサッカーダイジェストでは松本特集を組み、田中隼磨選手のインタビューも掲載しています。今季に懸ける熱い想いなどを語ってくれていますので、ぜひご一読ください。
 
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