【藤田俊哉/この一枚】大切にしてきた人との“つながり”――そしてグローバルに活躍中

2020年05月25日 徳原隆元

近い将来、ヨーロッパで指揮を執る姿も

7年前の国立で行なわれた送別試合で、スタンドの声援に応える藤田の表情は実に晴れやかだった。写真:徳原隆元

 スタンドからの声援に応える藤田俊哉さんは、実に晴れやかだった。

 ジュビロ磐田と日本代表時代のチームメイトやスター選手たちが参加した送別試合。2013年5月23日、国立競技場で行なわれたジュビロスターズ対ジャパンブルーの試合をもって、選手としての藤田さんはピッチに別れを告げた。

 それから5年。藤田さんは新たなサッカー人生を歩んでいた。2018年2月16日、VVVフェンロ対フローニンヘンの試合で藤田さんと会う機会があった。フローニンヘンは当時、堂安律が所属していたチームで、藤田さんもスタジアムに足を運んでいた。試合後、オランダ在住のライターさんを介して挨拶をし、スタジアム内のパブで話をした。

 多くのサポーターが歓談するパブは賑わいを見せていた。藤田さんはフェンロでのコーチ経験もあり、チーム関係者と思しき人物たちと笑顔で挨拶を交わしていく。その間柄はチームを離れても昵懇(じっこん)であることが窺えた。

 その後、藤田さんの車でホテルまで送ってもらい、近くのカフェレストランで再び話をすることになった。この時に貰った名刺の職名には、イングランドのサッカークラブ、リーズ・ユナイテッドの"Head of Football Development-Asia"の文字。サッカー事業におけるアジア地区の責任者に就いていた。

"フットボール"の話は尽きず、日付をまたぎ、店員が閉店を知らせに来るまで楽しい時間を過ごした。藤田さんとは磐田時代にインタビュー取材で会っていたが、それは20年近く前のこと。磐田の地元記者のように頻繁に会う機会はなく、いち報道陣という立場では当然だが記憶に残っていなかった。しかし、である。初対面と言ってもいいこちらを相手に、たくさんの話を聞かせてくれた。

 藤田さんがプレーしていた当時の磐田は多くのスター選手が所属し、実力もJリーグのトップレベルにあり、黄金時代を築いていた。当然、チームは注目され、磐田の主力選手たちは報道陣に対応する機会も多かったはずである。
 
 そうした選手たちの中で、藤田さんは報道陣に対して最も積極的かつ誠実に対応していた印象がある。だから「現役時代も、人との関係作りは特別だったんですよね」と投げかけてみた。傍から見た印象通り、藤田さん自身も現役時代から人間関係の構築の意義を意識してきているのだろう。こちらの言葉の真意を察したようで照れ笑いを浮かべていた。

 考えてみれば、日本人のプロサッカー選手が、引退後に外国のクラブ関係者と良好な人間関係を築き、世界で仕事をするというのは稀なことではないだろうか。グローバルに活躍する藤田さんは輝いて見えた。

 現在は日本サッカー協会の欧州在住強化部員に就任している。こうして様々なポストをこなす姿を見ると、改めてサッカーに関するあらゆる分野で力を発揮できる人物だと実感する。それを可能にしている主因はやはり、彼の人との関係作りの上手さだと思う。

 グローバルな思考と高い行動力を持ち、国籍を越えて友人を作り、世界の舞台で仕事をする。現役引退後、ヨーロッパでの監督就任を目指し、様々な経験を積んできているが、近い将来、その憧れの舞台で指揮を執っている藤田さんの姿を見られるかもしれない。

取材・文・写真●徳原隆元

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